メンタルケアの専門家(公認心理師)が解説!身近な人の「死」と向き合う方法①
2023年4月28日
誰でも大切な人を亡くしたときは、様々な苦しみを抱え、暗くて長くて出口がないとも思えるトンネルの中にいるように感じるもの。相続の手続き自体は司法書士など専門家に任せたけれども、この先、身近な人の「死」を乗り越えて歩んでいけるだろうか。そんな身近な人を亡くされた皆さんが気持ちの上でも相続に向き合えるよう願い、身近な人の「死」への向き合い方を国家資格者である公認心理師が解説します。
心や身体に起きる反応や生活の変化
・深い悲しみにより、何も手につかない。
・いろいろなことにストレスを感じ、常にイライラしている。
・常に不安の渦の中にいるように感じる。
・何も感じず、感情をなくしたような感じがする。
・時が止まったような感じがしている。
・すべてがどうでもよくなる。
・常に涙が止まらない。突然に涙が出る。
・悲しいはずなのに、涙が全くでない。
・眠れない。起きられない。
・食事が喉を通らない。
・言葉が出ない。
・人に攻撃的になってしまう。
・誰とも接したくない。人が怖い。外に出かけなくなった。
大切な人を亡くし、最近、思い当たるものはありませんか。このような心身の反応や、生活の変化に対し、「自分はおかしいのだろうか。」「自分はなんて弱い人間なのだろうか。」などと、自分を責めてしまっていませんか。また、他人と比べてそのように思っていませんか。
皆さんが感じている、これらの自然と湧いてくる感情や身体の反応は、私たちにとって必要なものです。また、「誰が亡くなったのか」「どのように亡くなったのか」「過去の喪失体験」「本人の気質」「周囲の環境」などにより、悲しみや苦しみの長さや深さは人それぞれ異なります。だからこそ、皆さんの感情や反応はとても大切なものであり、それら一つ一つを抱きしめるような気持ちで理解してあげることが必要です。
こうした様々な反応や変化は必要なものである一方で、この状態が続いてしまうことは「健康な状態」とは言えず、他の深刻な症状が出現してしまう可能性もあります。そうなってしまうことを予防し、大切な人を失った悲しみから立ち直る方法の一つとして「グリーフケア」というものがあります。
グリーフケアとは
「グリーフ」とは、大切な人やものを失ったことによる、深い悲しみや嘆き、そうした感情を抱きながらも奮闘する中で起きる複雑な反応、不安定な状態を意味する言葉です。そうしたグリーフを「ケア」することを「グリーフケア」と言います。大切な人との別れを経てグリーフの状態にある人の、耐えがたい悲しみに寄り添い、苦しみを軽減して前を向いていけるようにサポートする重要なケアです。グリーフケアには日常的に行えるものもあれば、機関を使って行うものもあります。
日常的に行えるグリーフケア
身近な人に気持ちを話すことや、自分自身で気持ちを整理することは、グリーフケアになります。グリーフケアにおいて大切なのは、「様々な感情をできるだけ抑え込まずに、肯定する」ということです。日々の生活の中で悲しい気持ちや、不安な気持ちを抑え込んで無理に明るく振る舞うよりも、ありのままの気持ちを身近な人に話すことや、自分自身で今ある気持ちをそのままに感じ、認めてあげることが大切です。周囲にすぐに相談できる人がいない場合は、自分自身で意識してみましょう。できるだけ感情を思い切り外に吐き出すことも必要なプロセスですが、思い切り吐き出すのが難しい場合は、ノートに書き出すことも効果的です。
そうはいっても、自分の身に何が起こっているのかわからない状態というのは、とても不安なもの。そのままの気持ちを肯定するということ自体が難しいことです。そこで、大切な人を亡くしたときに起こりやすい反応を知ることが、自身の状態を理解する助けとなるでしょう。今回は、「日本グリーフ専門士協会」が提唱している「グリーフスパイラル」と呼ばれている考え方紹介します。「グリーフ」を抱えながらも、自分らしく生きていけるようになるまでの道のりを示したものが「グリーフスパイラル」という考え方です。
出典:日本グリーフ専門士協会
端に「喪失」があり、中央に「哀しみ」があります。そして、その周辺に「混乱」「否認」「怒り・罪悪感」「抑うつ」「あきらめ」「転換」「再生」と書かれています。これらの状態は必ずしも順番通りに現れるものではなく、どこかの局面が現れないことがあったり、行ったり来たりすることもあると言われています。ですから、1つの目安としてご覧になってみてください。 中央にある「哀しみ」は、なかなか目に見えないものでありながら、常に心の奥にあるものです。「哀しみ」は喪失体験における根っことなる部分です。その「哀しみ」が根っこにある中で、周辺にあるそれぞれの局面での反応が引き起こされます。つまり、目に見えにくい「哀しみ」を常に抱えながら、目に見えやすい形でそれぞれの局面での「反応」が起こっているといえます。それぞれの局面で様々な反応が起きている時に、その奥には哀しみがあるということを忘れずに、自分自身をいたわりながら、その状態を理解しようとすることが大切です。(各局面についての具体的な説明は次回のコラムに掲載予定です。)
機関を使って行うグリーフケア
日本では現在、グリーフケアについての研究が注目されています。また、アメリカやイギリスなどでは、患者が亡くなった後も遺族が定期的に通院し、グリーフケアを受けることが一般的なものになっています。それほど、大切な人を失うことは、私たちに大きな悲しみや変化をもたらすものです。深い悲しみから立ち直るためには、時として、病院や専門家からグリーフケアを受けることも必要です。多彩なグリーフケアをありますが、ここでは3つの機関を紹介します。
1つ目に病院内の「グリーフ外来」です。グリーフケアは心療内科などで受けることができる場合もありますが、死別による心のケアは専門性が求められます。そのため、病院によっては「グリーフ外来」や「遺族外来」を設けている場合があります。病院内の機関のため、二次的な症状を発症している場合にすぐに治療を始めることができます。
2つ目に、「グリーフケアアドバイザー」への相談です。グリーフアドバイザーとは2008年に設立された資格で、死別による哀しみ・喪失感を抱える遺族に対するケアを行います。遺族に寄り添い、回復して前を向けるようになるまで、支援をし続けます。
3つ目に、「わかち合いの会(グリーフケアカフェ)」です。全国各地で開催されており、死別や離別を経験した人たちが集まり、お茶を飲みながら、素直な気持ちを話したり聞いたりできる場所です。専門士も参加し、話を聴いてくれる場所です。
安心できる場所をもつこと
私たちに起きる様々な反応は、自分自身の心をどうにかして守ろうと自然にはたらいているものです。そして、様々な状態を行ったり来たりしながら、心の状態は少しずつ変化していきます。そのすべてを肯定的に理解してあげることがとても大切ですが、それを皆さんひとりだけで抱えていくのはとても難しいことですし、長い時間がかかることもあります。皆さんの支えとなる、安心して過ごせる場所、安心して話せる場所が必要です。そうした場所は、少しずつ苦しみを手放す助けとなってくれると思います。あなたの心が和らぎますように。
(公認心理師 浅野琴子)
※参考書籍「大切な人を亡くしたあなたに知ってほしい5つのこと 井手敏郎」
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