不動産の名義変更の必要書類と手続・流れを解説!法務局への提出書類
土地や建物といった不動産も「モノ」であるため、持ち主が変わることもあります。
例えば、不動産を所有していた人が亡くなり、自分がその不動産を受け継いだ場合などが代表的です。
バッグや時計とは異なり、不動産の持ち主が変わる場合は不動産の名義変更の手続が必要になります。
このような不動産の名義変更の手続を怠るとリスクがあるだけではなく、場合によっては過料が科せられる場合もあります。
今回のコラムでは、このような不動産の名義変更の手続に必要な書類や手続の流れ、その他の注意点について解説していきます。
不動産の名義変更については法律が改正された点もあるため、ここで知識をアップデートしておきましょう。
1 不動産の名義変更とは?どんなケースで必要?
そもそも不動産の名義変更とは何でしょうか。
不動産は先ほど例に出したバッグや時計とは異なり、その所有者の氏名や住所が法務局という役所に置かれている登記簿に記載されて、関係者以外もそれを見ることができるようになっています。
なぜ不動産はこのような制度になっているのでしょうか。
例えば都心のビルを考えてみましょう。都心のビルを売ったり買ったりしようとした時、何億・何十億円という金額が動くことになります。
そのような高額な取引をする際に、そのビルの所有者は誰でどこに住んでいるのか?を明らかにしておかなければ、安全かつ円滑に取引をすることはできません。
そこで、上述したように、法務局に行けば誰でも不動産の登記簿謄本や登記事項証明書が手に入れることができるようになっています。
そして不動産の持ち主が亡くなったりした場合は、法務局に置いてある登記簿に記載されている不動産の持ち主を、その不動産を受け継いだ人(相続人)に変更する手続を行う必要があります。
登記簿に記載されている不動産の持ち主が古いままになっていたら、安全に不動産の取引をすることはできませんよね。
このような手続のことを不動産の名義変更(相続登記)といいます。
①不動産の名義変更とは?必要性と仕組みを解説
不動産の売買や相続、贈与などで不動産を取得した人は、その不動産の所在地を管轄している法務局に行き、相続登記を申請することによって、取得した不動産を自分の名義に変更する必要があります。
ここで注意しなければならないことは、不動産の所在地の「管轄」についてです。
不動産の名義変更をする際には、その不動産の所在地を管轄(担当)している法務局に行く必要があります。
自分で法務局を選ぶことができないことは必ず覚えておきましょう。適切な法務局にいかないと、そもそも登記を受理してもらうことができません。
法律の改正によって、不動産の相続登記(名義変更)に関しては2024年4月1日から義務化され、不動産を相続したことを知ってから3年以内に相続登記をする必要があり、期限内に登記を行わない場合は10万円以下の過料が課されることになりました。
この相続登記の義務は、法律が改正された後に不動産を相続した場合だけでなく、法律の改正前に相続した不動産も対象です。
②不動産の名義変更が必要になるケースは4パターン
それでは、不動産の名義変更が必要になるケースはどのようなものがあるでしょうか。
代表的なものは次の通りです。
- 不動産の持ち主の死亡し、相続人に持ち主を変更する場合
- 不動産の生前贈与を行う場合
- 離婚の際に財産分与を行う場合
- 不動産の売買をした場合
③それぞれのケースでの不動産の名義変更手続・必要書類まとめ
Ⅰ 名義変更手続
不動産の名義変更は、原則として、登記を変更することによって利益をうける登記権利者(例えば買主)と登記を変更することによって不利益を被る登記義務者(例えば売主)が一緒に行う必要があります。
名義変更の手続は、基本的にどのケースでも一緒です。
まず、売買や贈与などに関係する契約書を作成します。その後登記申請書を作成し、最後は不動産がある場所を管轄している法務局で登記の申請を行うことで登記が完了します。
Ⅱ 名義変更に必要な書類
名義変更に必要な書類はそれぞれのケースで異なるため、順にみていきましょう。
(1)不動産の売買をした場合
不動産の売買をした場合に必要になる書類は次の通りです。
①売買契約書等
②登記権利者の住民票
③発行から3ヶ月以内の登記名義人の印鑑証明書
④売買をした不動産の登記識別情報または登記済証
⑤不動産の固定資産評価証明書
(2)不動産の持ち主の死亡し、相続人に持ち主を変更する場合
不動産の持ち主の死亡し、相続人に持ち主を変更する場合に必要になる書類は次の通りです。
①故人が生まれてから亡くなるまでの戸籍
②相続人(複数人いる場合は全員)の戸籍
③登記権利者の住民票
④故人の住民票の除票または戸籍の除票
⑤不動産の固定資産評価証明書
⑥遺産分割を行った場合は、相続人全員分の印鑑証明書
⑦不動産の固定資産評価証明書
(3)不動産の生前贈与を行う場合
不動産の生前贈与を行う場合に必要になる書類は次の通りです。
①贈与契約書等
②登記権利者の住民票
③発行から3ヶ月以内の登記名義人の印鑑証明書
④生前贈与を行う不動産の登記識別情報または登記済証
⑤不動産の固定資産評価証明書
(4)離婚の際に財産分与を行う場合
離婚の際に財産分与を行う場合に必要になる書類は次の通りです。
①財産分与の契約書等
②登記権利者の住民票
③発行から3ヶ月以内の登記名義人の印鑑証明書
④離婚後の戸籍謄本
⑤財産分与を行う不動産の登記識別情報または登記済証
⑥財産分与を行う不動産の固定資産評価証明書
①不動産の名義変更にかかる費用は?
不動産の名義変更にかかる費用は、自分で名義変更を行うのか、それとも専門家に依頼するのかによって変わります。
まず、自分で全部の手続をする場合であっても、不動産の名義変更をするには登録免許税がかかります。
この登録免許税は、登記の手続を行うときに国に納める税金のことをいいます。
税金の額は、その土地や建物の評価額に税率をかけて計算するため、◯◯円と決まっているわけではありません。
土地の所有権移転登記をする際の主な税率などは次の通りです。
内容 | 税率 | 軽減税率 |
売買 | 1,000分の20 | 令和8年3月31日までの間に登記を受ける場合1,000分の15 |
相続、法人の合併または共有物の分割 | 1,000分の4 | |
贈与等 | 1,000分の20 |
登録免許税のほかに、登記を行う上で必要になる書類は取得費用がかかります。
代表的なものは次の通りです。
書類の種類 | 1通あたりのおおよその費用 |
戸籍謄本 | 450円 |
除籍謄本 | 750円 |
戸籍の附票の写し | 300円 |
印鑑証明書 | 300円 |
住民票の写し | 300円 |
固定資産評価証明書 | 100円〜400円 |
また、司法書士といった専門家に登記を依頼する場合は、別途費用がかかります。
相続人の数によっても費用は変わりますが、5万円〜15万円程度はかかると考えておいたほうが良いでしょう。
2 遺産相続での不動産の名義変更の必要書類・手続きまとめ
ここまで不動産の名義変更の概要について総論的に解説してきました。
ここからは、それぞれのケースの詳細について各論的にみていきましょう。
① 遺産相続は申請方法によって必要書類が異なるため注意
まずは少し複雑な、不動産の持ち主が死亡し、相続人に持ち主を変更する場合についてみていきます。
詳細は後ほど解説しますが、いわゆる遺産相続の場合は、遺産分割協議での申請の場合と遺言書での申請の場合、法定相続分での申請の場合のそれぞれで相続登記に必要な書類が異なります。
この点を見落とすと円滑に相続登記ができなくなるため注意が必要です。
②遺産相続での不動産の名義変更の流れ
遺産分割協議での申請の場合、遺言書での申請の場合、法定相続分での申請の場合のどれを選ぶかで必要な書類が異なりますが、例えば遺産分割協議で申請する場合であれば、遺産分割協議書といった必要書類を作成しましょう。
必要書類が全てそろったら、次は登記申請書の作成です。
登記申請書は法務局の窓口で記入することができるようなものではなく、事前に作成して申請する必要があります。
登記申請書では、目的や原因、登録免許税や誰が申請するのかといった項目を自分の申請内容と照らしながら作成していきます。
記載例については、法務局のホームページで公開されているので参考にしてみてはいかがでしょうか。
(https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001365929.pdf)。
③ 遺産相続での不動産の名義変更の必要書類
遺産相続での不動産の名義変更に必要な主な書類は8つあります。具体的には次のとおりです。(相続財産の内容によって必要ないものもあります)。
①被相続人(故人)が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本等 | 故人の戸籍謄本は、原則として生まれてから亡くなるまでのすべてを集める必要があります。複数回にわたって転籍しているような場合は、戸籍謄本を集めるだけでも一苦労です。しかし、戸籍謄本は相続人を確定するための書類なので、必ず用意する必要があります。 |
②住民票の徐票の写しまたは戸籍の附票の徐票 | これらは、故人の住所・氏名・本籍地を特定するために必要になります。 |
③法定相続人全員分の戸籍謄本 | 相続人であることと、今現在も生きていることを証明するために必要になる書類です。 |
④遺産分割協議書 | 遺産分割協議書は、遺産分割協議をした場合に必要になります。 |
⑤法定相続人全員分の印鑑証明書 | 遺産分割協議を行った場合は、遺産分割協議書に添付します。 |
⑥相続財産を受け取る相続人の住民票の写し | これは、登記簿上に不動産の持ち主として記載されている人の住所を特定するために必要になります。 |
⑦一番新しい年度の相続不動産の固定資産評価証明書 | 相続登記をする際の登録免許税の計算で利用します。 |
⑧相続する不動産の登記事項証明書 | 不動産の特定や、その不動産の名義が被相続人かを確認するために利用します。 |
3 生前贈与での不動産の名義変更の必要書類・手続まとめ
それでは次に、生前贈与をする際の不動産の名義変更の必要書類と手続をみていきましょう。
①生前贈与での不動産の名義変更の流れ
生前贈与は文字通り贈与であるため、贈与契約書を最初に作成することが一般的です。
贈与契約書の作成が終わった後は、遺産相続と同様に登記申請書の作成→不動産の所在地を管轄している法務局で登記の申請→登記が終わった後に登記識別情報といった書類を法務局から受け取るというプロセスを踏みます。
② 生前贈与での不動産の名義変更の必要書類
生前贈与での不動産の名義変更に必要な主な書類は5つあります。具体的には次のとおりです。(相続財産の内容によって必要ないものもあります)。
① | 贈与契約書 |
② | 発行から3ヶ月以内の登記名義人である贈与を行う人の印鑑証明 |
③ | 不動産を贈与された人の住民票 |
④ | 贈与の対象となる不動産の登記識別情報・登記済証 |
⑤ | 贈与の対象となる不動産の固定資産評価証明書 |
4 離婚(財産分与)での不動産の名義変更の必要書類・手続まとめ
次は、離婚(財産分与)での不動産の名義変更の必要書類・手続です。
①離婚(財産分与)での不動産の名義変更の流れ
離婚で財産分与を行うには、まずは離婚届を提出する必要があります。
当たり前のように思えるかもしれませんが、このことは意外と見落としがちです。
離婚の際にはやらなければいけない手続が多いですが、まずは離婚の手続そのものを完了させましょう。
離婚が完了したら必要書類を集め、その後登記申請書を作成します。
登記申請書を作成したら、不動産の所在地を管轄している法務局で登記申請し、登記が完了したら法務局から書類を受け取ります。
②離婚(財産分与)での不動産の名義変更の必要書類
離婚(財産分与)での不動産の名義変更に必要な主な書類は6つあります。具体的には次のとおりです。
① | 財産分与があったことを示す書類(財産分与の協議書等) |
② | 発行から3ヶ月以内の登記名義人の印鑑証明書 |
③ | 不動産を受け取る人の住民票 |
④ | 財産分与の対象となる不動産の登記識別情報・登記済証 |
⑤ | 財産分与の対象となる不動産の固定資産評価証明書 |
⑥ | 離婚したことがわかる書類(戸籍謄本等) |
5 不動産売買での不動産の名義変更の必要書類・手続まとめ
最後は、不動産売買での不動産の名義変更についてみていきます。
①不動産売買での不動産の名義変更の流れ
不動産売買での名義変更は、不動産を買いたいという人と売りたいという人の合意がある取引であることから、手続が比較的単純です。
まずは売買契約を結び、売買契約書を作成します。
その後は登記申請書の作成→不動産の所在地を管轄する法務局で登記の申請→法務局から書類を受け取るという手順をふみます。
②不動産売買での不動産の名義変更の必要書類
不動産売買での不動産の名義変更に必要な主な書類は5つあります。具体的には次のとおりです。
① | 不動産の売買があったことを示す書類(不動産の売買契約書等) |
② | 発行から3ヶ月以内の登記名義人の印鑑証明書 |
③ | 不動産を買った人の住民票 |
④ | 売買の対象となる不動産の登記識別情報・登記済証 |
⑤ | 売買の対象となる不動産の固定資産評価証明書 |
6 不動産の名義変更でよくある質問
Q1.不動産の名義変更はだいたいどれほどの期間で完了しますか?
不動産の名義変更をする場合、これまで解説してきたように法務局への登記申請が必要になります。
この法務局での審査はその場で終わるものではなく、通常は1〜2週間程度の時間がかかります。
さらに、相続を伴う場合は戸籍謄本の収集期間まで含めると1ヶ月では終わらないこともあります。
不動産の名義変更はそれなりに時間と手間のかかる手続だということは必ず押さえておきましょう。
Q2.不動産の名義変更はやらなくてはいけない必須義務ですか?
従前は、相続登記も含め不動産の名義変更の手続に義務や期限はなく、罰則等もありませんでした。
しかし法律が改正され、令和6年4月からは相続登記については義務化されました。
それに伴い、不動産を取得した相続人は、相続を知った日から3年以内に相続登記の申請をする必要があります。故意や過失に関わらずこの登記手続を放置していると10万円以下の過料の対象となることに注意が必要です。
なお、過去に相続した不動産についても相続登記が義務化されています。相続登記の義務化を決めている法律の施行日or不動産の相続を知った日のいずれか遅い日から数えて3年以内に名義変更の登記が必要です。このことも必ず覚えておきましょう。
なお、相続登記以外の名義変更については期限がありません。しかし名義変更をしないと、例えば家であれば、他の人に対して「これは自分の家です」と公に主張できないため、その家の売却手続きといった他の手続ができなくなります。後々のリスクを考えると早めに名義変更をすることをおすすめします。
Q3.不動産の名義変更を自分で行うことは可能ですか?
不動産の名義変更を自分で行うことは可能です。必要書類を集めて、不動産の所在地を管轄している法務局で手続を行いましょう。
Q4.不動産の名義変更を依頼・相談したい場合にはどこへ連絡すればよいですか?
不動産の名義変更について依頼や相談をする場所として、まずは司法書士事務所や弁護士事務所が挙げられます。
司法書士事務所や弁護士事務所では法律の専門家から的確なアドバイスをうけることができます。
しかし、どうしても相談の費用を抑えたい場合は、区役所や市役所の相談窓口や相続登記相談センター、法務局で相談するという方法もあります。
区役所や市役所によっては不動産の名義変更についての一般的な質問を司法書士や弁護士にすることができます。
※最終的に、不動産の名義変更の「依頼」は司法書士や弁護士にすることになるため、後々の手間を考えるとはじめの相談の段階から司法書士事務所や弁護士事務所に行くというのも一案です。
Q5.不動産の名義変更はどこで行いますか?
不動産の名義変更は不動産の登記業務を行う法務局で申請を行います。
ここでの注意点は、法務局ならどこでも良いわけではなく、申請する不動産を管轄する法務局に行く必要があるということです。
法務局は市役所・区役所と比べるとあまり身近な役所ではありません。しっかりと管轄の法務局の場所を確認し、間違った法務局に行かないように気をつけましょう。
7 まとめ
今回のコラムでは、不動産の名義変更の必要書類と手続・流れを解説しました。
土地や建物といった不動産も「モノ」であるため、持ち主が変わることもあります。不動産の持ち主が変わる場合は不動産の名義変更の手続が必要になることは覚えておきたいですね。
遺産相続・生前贈与・離婚(財産分与)・売買のどれが原因で不動産の名義変更を行うかによって必要な書類や手続が変わってきます。戸籍謄本を集めるなど、時間のかかる手続がある場合は早め早めの行動を心がけることが大切です。
不動産の名義変更にかかる費用は、自分で名義変更を行うのか、それとも専門家に依頼するのかによって変わります。
司法書士といった専門家に依頼する場合には、登録免許税等の他に、別途で5万円〜15万円程度の費用がかかると考えておいたほうが良いでしょう。
あくまで不動産の名義変更に関する一般的な相談だけを行いたい場合は、区役所や市役所の相談窓口や相続登記の相談センター、法務局で相談するという方法もあります。このようなサービスを利用してからもう一度よく考え、最終的に必要だと判断したら専門家に依頼するというのも一案です。