遺言書がある場合の相続を網羅解説:手続き・流れ・注意点

本来、相続人間における遺産の分け方については、「遺産分割協議」を行い、確定させるのが原則です。しかし、遺言書が存在することで、被相続人の意思が優先されることになり、この点は非常に重要です。ただ、遺言書の種類によって必要とされる手続きや検認の有無に違いがあるため、事前に基本的な流れを把握しておくことが肝心といえます。また、複数の遺言書が見つかった場合や、遺言書の内容に納得できない相続人がいる場合など、細かな注意点を理解する必要があります。
大切な家族の遺産を円滑に分割するためには、遺言書を正しく取り扱い、法的に有効な遺言であるかを確認することが欠かせません。公正証書遺言か自筆証書遺言かで、検認手続きの要否が変わるなど、知っておくべき細かい手続きも存在します。さらに、遺言執行者の指定や遺留分侵害額請求といった複雑な要素にも留意する必要があります。
本記事では、遺言書の種類や検認の手順、遺留分侵害額請求など、相続でよく問題となるポイントを一つひとつ整理して解説します。専門家に依頼するメリットや手続き上の注意点にも触れ、トラブルなく相続を進めるための知識を網羅的にお伝えしていきます。
目次
1 遺言書がある場合の相続手続きの全体像
最初に押さえておきたいのは、遺言書が見つかった場合の基本的な手続きの流れです。手続きをスムーズに進めるために、確認すべきステップを整理しましょう。
遺言書が見つかった場合、まずは遺言書がどのような形式で作成されているかを確認することが大切です。自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言のいずれかによって、必要とされる手続きや検認の有無が異なってきます。特に自筆証書遺言と秘密証書遺言については、家庭裁判所での検認が原則として必要となるため、早めに手続きを意識しなければいけません。
また、遺言書の内容が実際に有効かどうかを判断するために、作成日や署名、押印、証人の有無など細部の要件を確認する必要があります。要件を充たしていない遺言書の場合、形式的な不備を理由に無効となる可能性があるからです。有効性を正しく判断できないときは、専門家へ相談することで早期に問題点を把握できます。
遺言書が有効と判断された後は、遺言内容に従って遺産を分割したり、遺言執行者が権限を行使したりなど、具体的な手続きへ移行します。ただし、相続人間で協議が必要な場面も出てくるため、遺言書の内容のみで終わらせず、必要に応じて分割協議や遺留分の検討など多角的に確認する姿勢が重要です。
(1)遺言書の種類と確認手順
遺言書には大きく分けて、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の三種類があります。
①自筆証書遺言
文字通り、手書きで書いた遺言書です。
書式は問わないためいつでも、どこでも書くことができるメリットがありますが、基本的に手書きでなければならない点や記載ミスがあった場合の訂正方法がややこしいなどのデメリットもあります。
自筆証書遺言の多くは自宅や貸金庫などで保管されています。
②公正証書遺言
公正証書遺言は公証役場で証人2名の立会のもと、公証人において作成される遺言書になります。
公証人は法律文書作成の専門であるため、法的な形式において不備が生じにくいという特徴があります。
また、作成後は遺言書の原本が公証役場にて保管されるため、「原本の紛失」というリスクがありません。
ただし、公証人へ作成手数料を支払う必要があるため、自筆証書遺言と比べて作成にコストがかかってしまうというデメリットがあります。
また、公証人と事前にやりとりを重ねるため、自筆証書遺言よりも作成までに時間がかかることが通常です。
③秘密証書遺言
公正証書遺言では、最低でも公証人と証人2名に遺言書の内容を知られてしまいます。
秘密証書遺言は内容をどうしても知られたくない場合に、内容を秘匿したまま証人を立てて遺言書を作成する仕組みです。
このように遺言書には大きく3種類ありますが、確認の際は、まず遺言書がどの形式であるかを明確にしておきましょう。
自筆証書遺言や秘密証書遺言であれば、家庭裁判所での検認が必要になるケースがあります。そのまま勝手に開封したりすると過料が科せられたり、後々相続人同士でトラブルになる可能性もあるため、開封前に専門家に相談することで不正や不備を防ぎやすくなります。
公正証書遺言の場合は、検認手続きが不要なため比較的スムーズに内容を確認できます。ただし、公正証書遺言でも改訂や複数の遺言書が存在した場合は、最新の日付の遺言書が優先されるなどのルールがあります。公的に作成されていても、ほかの遺言書との関係をチェックする手間は怠らないようにしましょう。
2 遺言書検認の必要性と手続き
自筆証書遺言や秘密証書遺言が見つかった際には、原則としてそのまま開封せずに家庭裁判所の検認手続きを行う必要があります。検認は、相続人が遺言書の存在と内容を確認することで、後々の偽造・変造トラブルを防止するための手続きとなります。もし勝手に開封してしまうと、過料というペナルティが科される可能性があるので注意しましょう。
なお、自筆証書遺言を法務局で保管していた場合には、この検認手続が不要となります。
検認手続きの流れは、概ね以下のようになります。
①必要書類の準備
故人の相続人を証明するために戸籍・除籍謄本などを収集します。
なお、現在直系の親族であれば最寄りの役所で故人の戸籍を取得することができる制度があります。
②検認申立書類の作成
家庭裁判所のホームページにて書式をダウンロードできるようになっています。
故人の情報や遺言書を保管していた状況など、必要事項を記入します。
③家庭裁判所へ必要書類と検認申立書の提出
④相続人全員へ検認期日の通知
家庭裁判所は、提出された申立書類の審査が終わると相続人全員へ検認期日の通知を行います。
通知された期日に立会うかどうかは任意ですが、申立人となっている相続人は必ず立会う必要があります。
⑤検認手続
家庭裁判所で遺言書の開封・内容確認を行います。
検認の結果、遺言書の存在や形式が確認されたとしても、その遺言書がただちに有効と判断されたわけではない点に留意が必要です。遺言書の内容が法的に有効かどうかは、記載内容の明確性や正確性など、別途必要な要件を備えているかを確認することで決まります。
3 遺言書に従った遺産分割の進め方
遺言書が有効と確認されたら、基本的にはその内容に従って相続手続きを進めます。ただし、場合によっては相続人同士での遺産分割協議が必要となることもあります。
一般的に、遺言書の内容が明確であれば、基本的にはそこに記載された分配方法に沿って手続きを進めます。遺贈先が指定されている場合は、その指定財産を受遺者に渡す手順を踏んでいきます。遺言書によって、ある程度細かく個々の資産の行き先が決まっているケースでは、相続人同士で大きな争いが生じにくいのが利点です。
ただし、遺言書に記載されていない財産があったり、遺言の内容が曖昧で相続手続きをすることができない場合、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。この協議が整わなければ、家庭裁判所での調停や審判に進む可能性もあるため、早い段階で話し合いを行うことが望ましいです。相続で揉めることを避けるためにも、遺言書の作成者が生前に家族へ相談しておくのも有効な手段となります。
また、相続人が内容に納得していても、法定相続分や遺留分との兼ね合いを考慮しなければいけません。特に、特定の相続人に過大な財産を与える内容になっている場合は、他の相続人からの遺留分侵害額請求の問題が生じる可能性があります。
遺留分についての詳しい解説は後述します。
遺言内容を尊重しながらも、全員が公平感を得られるように配慮するのが円滑な手続きへの近道です。
(1)遺言執行者がいる場合といない場合の違い
遺言書上で遺言執行者が指定されている場合、相続財産の名義変更や分配の実行など、重要な事務手続きをその人物が担うことになります。指定された遺言執行者は、遺言書の内容を実現するために必要な権限を持ち、他の相続人の同意なく手続きを進められる場合もあります。一方、利害関係の調整が必要な場合には、相続人と協議を重ねる場面もあるので、誤解や行き違いが起こらないように対応しましょう。
遺言執行者の具体的な役割は以下のようになります。
①相続人全員への通知
遺言執行者になった旨と、今後遺言書に基づいて相続手続を進めていくことを相続人全員へ通知します。通知の際はできるだけ書面で行い、遺言書の写しなども同封しておくとよいでしょう。
なお、法律上の通知義務があるのは相続人全員ですが、他に相続人以外で財産を受取る方がいる場合や財産を管理している方がいる場合は、併せて通知しておくのが望ましいです。
②財産調査・財産目録の作成
遺言執行者は遺言者の財産を調査し、その目録を作成・相続人へ通知する義務があります。
③遺言の執行
遺言書の内容に従い、各財産について承継手続を行います。具体的な手続の概要は後述します。また、債務がある場合はこの時点で弁済を行います。
④完了通知
遺産の承継手続を全て終えたら相続人全員に遺言執行完了を通知します。
このとき、各財産につき、誰にどのくらいの金額を相続させているのか一覧表を作成し同封するとよいでしょう。
もし遺言執行者がいない場合は、原則として全ての相続人で協力しながら手続きを進める必要があります。各種名義変更や財産の引き渡しなどは全員の合意を得て行うため、事務手続きが煩雑になる場合があります。相続人が複数に渡るケースや相続財産が多い場合は、手間や混乱を防ぐために専門家に依頼するのも有用です。
遺言執行者の有無を判断するには、遺言書の中身をよく確認して「遺言執行者」という表記や指定事項があるかを調べなければなりません。もし複数の執行者が指定されていたり、指定が無効と判断される内容が含まれている場合は、状況に応じて裁判所に選任を請求することもできます。いずれにしても、誰が執行の責任を持つのかを明確にしておくことが大切です
(2)遺言書の内容と異なる分割を選択するには
法律上、相続人や受遺者全員が合意すれば、遺言書の内容とは異なる遺産分割を行うことも可能です。たとえば遺言書で特定の不動産をAさんに相続させると書かれていても、受遺者であるAさんと他の相続人全員が合意すれば、別の人がその不動産を承継することができます。これにより、遺言書で想定されていない円満な解決方法を模索することが可能になります。
もっとも、遺言者が生前に特別な意思を持って資産を分割していた場合、それを覆すことは被相続人の意思を軽視することにもつながりかねません。話し合いの結果としては、遺言書の内容を尊重しながら調整するケースも多く見られます。特に価値が大きい財産をめぐっては、全員の合意が得られたとしても、後々のトラブルを回避するためにも書面化しておくことが望ましいです。
さらに、遺言の有効性に疑義が生じたり無効と判断された場合は、結局法定相続に基づいて全財産の分割協議をやり直す必要が出てきます。そのため、遺言内容と異なる分割を進める前に、遺言の有効性や相続人の納得度合いを十分に確認するようにしましょう。いずれにせよ、全員が協力して手続きを進めるための話し合いが必要となります。
なお、相続人以外の第三者が遺贈を受ける内容の遺言書がある場合に、それとは異なる遺産分割協議を行う場合は、相続人において贈与税が課税される可能性もあります。
(3)複数の遺言書・記載のない財産がある場合の対処
遺言書が複数見つかった場合や、一部財産について遺言書に触れられていない場合の整理方法を把握しておきましょう。
遺言書が複数存在するケースは珍しくありません。特に、自筆証書遺言をその都度書き足していた被相続人の場合、新旧の内容が食い違う可能性があります。遺言書の作成日が新しいものを優先するという法律の原則があるものの、相続人間の混乱を避けるために、すべての遺言書を一度整理して内容をしっかり確認する必要があります。
また、遺言書には特定の財産しか記載されていないことも多く、想定外の預貯金や動産が後から発見される場合があります。こういった財産は法定相続分や相続人間の協議によって分割を決定する手順を踏むこととなります。必要に応じて相続人全員で合意書を作成し、不動産や預金口座などの名義変更に役立てましょう。
複数の遺言書を整合的に処理し、未記載財産も含めて総合的な相続内容をまとめるためには、弁護士や司法書士などの専門家と連携するのが安心です。自分自身で手続きを進める場合でも、法律や手続きの知識が不十分だとミスやトラブルの原因になりかねません。まずは全ての遺言書と財産リストの把握から始め、着実にステップを踏みましょう。
(4)複数の遺言書が見つかったときの優先順位
基本的には、最新の日付で作成された遺言書が優先されるというのが法律上のルールです。古い遺言書と新しい遺言書の内容が矛盾する場合、新しい遺言書の条項が有効となり、古い部分は取り消されたものとして扱われます。ただし、明確に矛盾しない部分については、以前の遺言も有効に機能し続ける可能性があるので注意が必要です。
なお、古い遺言書を撤回する場合に、古い遺言書と同様の方法で新しく遺言書を作成する必要はありません。
公正証書遺言を自筆証書遺言で撤回することもできますし、その逆も可能です。
複数の遺言書が全く同じ日付で作成されている場合や、新しい遺言書の存在が疑わしい場合には、専門家の意見を交えて内容の整合性をチェックするとよいでしょう。証人の署名や押印、作成手順などから有効性を判断することも可能ですが、ケースによっては相続人間の話し合いが難航することがあります。トラブルを回避するためにも、法的専門家への早期相談が欠かせません。
多くの場合、遺言書が複数存在しても、無効かどうかだけに焦点を当てるよりも、新旧を含めた総合的な遺産分割方法を検討したほうが早く解決できる場合もあります。相続人全員が納得できる結論に落ち着くためにも、発見されたすべての遺言書を正しく比較・評価し、手続きに漏れがないよう進めていきましょう。
(5)遺言書に記載のない財産を分割する方法
遺言書では特定の不動産や預金などしか指定されておらず、その他の財産については一切言及がないケースも珍しくありません。そのような場合は、遺言書に載っていない財産を相続人同士で遺産分割協議にかけることが必要です。特に、被相続人名義の株式や負債、動産などの扱いをどうするかを明確にするため、相続人全員の合意を協議書にまとめておくと安心です。
遺産分割協議書は、預貯金の解約や不動産の登記などの名義変更手続きの際に提出を求められることが多いです。相続人全員が実印を押し、印鑑証明書を添付するなど、公的に合意内容を証明しやすい形式を整えておくと手続きがスムーズに進みます。書面化しておかないと、後々に「この財産は誰が引き継ぐのか」という争いが起こる可能性が残るため、面倒でもしっかり書類を作成しましょう。
また、遺言書に記載がないからといって、その財産が自動的に法定相続分どおりに割り振られるわけではありません。法定相続分は一つの基準に過ぎず、相続人の話し合いによって別の分割方法を選択することもできます。その場合も全員の合意が前提となるので、スムーズな手続きのためには互いの事情を理解しながら協議を進める姿勢が大切です。
4 遺言が不公平と感じたときの対応:遺留分侵害額請求
遺言書の内容が著しく不公平な場合、法律上の最低限の取り分を保障する制度として遺留分が定められています。
遺言書によって特定の相続人が多くの遺産を相続する場合、他の相続人から見ると不公平だと感じることがあります。こうした局面で、法律は遺留分という最低保証を設けており、相続人のうち兄弟姉妹以外の人には一定の財産を確保できる仕組みを用意しています。遺言書が存在しても、遺留分を侵害するような内容であれば、法律に基づいた救済を受けられる可能性があります。
遺留分がどの程度の割合となるかは、配偶者や子、直系尊属など、相続人の範囲によって変わります。たとえば子が相続人の場合、子の遺留分は法定相続分の半分であることが一般的です。そのため、仮に遺言書によってほぼ全資産が別の相続人に渡るよう指定されていた場合でも、最低限の取り分を確保する主張が可能となります。
遺言内容に納得できないからといって、ただちに遺言書が無効になるわけではありません。しかし、遺留分を請求することによって最低限の財産を調整することは認められています。どのように主張するかや請求期限などのルールを守らないと、請求権が失われる恐れがあるため、不公平を感じた際には専門家と相談しながら手続きを検討することが望ましいでしょう。
(1)遺留分とは何か
遺留分とは、被相続人がどのように遺言書を作成していても、一定の相続人に保障される最低限の遺産取得割合をいいます。これにより、遺言書の内容が極端に一部の相続人を優遇するものであっても、他の相続人が法律上の権利を失わないように制度設計されています。日本では、兄弟姉妹以外の相続人に遺留分が認められている点が特徴的です。
この制度は、家族間の公平性を図るために重要な意義を持っています。一方で、被相続人が心から希望した財産分配に反するかもしれないため、相続の現場では意見が分かれることもあります。遺留分があることで、生活基盤を確保できるという利点がある反面、生前の意思が阻害されないようにバランスを取る必要があります。
とはいえ、必ずしも全相続人が遺留分を請求するわけではなく、遺言書の内容そのものに納得していて、あえて権利を行使しない場合もあります。権利を行使するか否かは相続人ごとに判断できるため、最終的には当事者間の話し合いが重要になります。
(2)遺留分侵害額請求の流れと注意点
遺留分侵害額請求は、まず相手方に直接交渉するところから始まります。この交渉で合意が得られない場合は、家庭裁判所での調停や審判、さらには訴訟に進むこともあり得ます。いずれの手続きにしても、請求期限があり、相続の開始および遺留分侵害の事実を知った日から1年以内に請求しなければならないなどの制限があるため、タイミングが重要です。
請求の際には、侵害された遺留分を金銭で支払うように求める形を取るのが一般的です。遺言書によって特定の不動産がすでに譲渡されていたとしても、実物を分割する必要は必ずしもありません。ただし、不動産の価値をめぐって相続人同士で争いになることもあるため、適切な鑑定や評価が求められるケースも少なくありません。
こうした手続きは金銭交渉や紛争リスクを伴うため、早い段階で弁護士に相談しておくとスムーズに進む場合が多いです。期限内に正しい方法で請求をしなければ、遺留分の権利を失う可能性もあるため、不公平さを感じた際には慎重かつスピーディーに動くことが大切です。
5 相続税・預貯金・不動産登記などの具体的な手続き
遺産分割の方針が固まったら、税金や名義変更など具体的な手続きに移ります。思わぬ手続き漏れがないように確認しましょう。
相続税が発生する可能性がある場合、期限内に申告しなければ加算税や延滞税がかかるリスクがあります。また、実際に相続税がかからない場合でも、一定の財産額を超えると申告が必要になるケースがありますので、専門家に財産評価を依頼して正確に把握するのが賢明です。相続税の制度は複雑で、控除や特例が多数存在するため、早めに準備を進めることが肝心です。
預貯金の名義変更や解約に関しては、銀行や信用金庫などの金融機関ごとに必要書類や手続きが若干変わる場合があります。一般的には被相続人の戸籍謄本や相続人全員の印鑑証明書などが必要となるため、事前に金融機関に問い合わせてリストを揃えておくことが大切です。相続開始後は口座が凍結されることもあり、公共料金等の引き落としなどに影響が出る場合があるため、手続きを先延ばしにしないようにしましょう。
不動産を相続する場合には、法務局での相続登記が必要です。登記を怠っていると、将来的に第三者との権利関係の争いが起こりやすくなり、売却や担保設定までも困難になる場合があります。遺産分割協議書や固定資産評価証明書、戸籍謄本など必要書類を揃えて、できるだけ速やかに登記を完了させることが望ましいです。
(1)税務申告の流れと期限
相続税の申告期限は、被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内と定められています。財産評価や特例適用の有無など、事前に調査が必要な事項が多くあるため、この期間を十分に活用して準備を行いましょう。書類の不備や評価額の誤りがあると、後から修正申告や追徴課税が発生するリスクもあるので注意が必要です。
相続税の申告には、所得税の確定申告とは異なる専門的な知識が求められ、計算ルールも複雑です。生命保険金や退職金の控除、配偶者控除、小規模宅地等の特例など、多彩な制度を総合的に把握して進める必要があります。わからない点が多い場合は、税理士に相談してサポートを受けるのが無難といえます。
特に不動産は税理士によっても評価が変わるほど複雑なため、遺産の中に不動産が含まれている場合は相続税を専門にしている専門家がおすすめです。
期限を過ぎると加算税として延滞税や無申告加算税が発生し、経済的な負担が大きくなる可能性があります。相続財産の洗い出しを早期に行い、必要書類を整理して申告をスムーズに進められるように体制を整えておくことが大切です。
(2)預貯金の解約・名義変更
被相続人の口座は、金融機関に相続の事実が通知されると凍結される仕組みになっています。凍結口座の解約や名義変更手続きを行うには、相続人を確定するための戸籍謄本や、遺言書、遺産分割協議書が必要になる場合があります。各金融機関で手続に必要な書類や流れが異なるため、事前に金融機関担当者によく確認しておくことで作業がスムーズになります。
預貯金の解約には、相続人全員の署名・押印を求められることもあるため、相続人が多数いる場合には十分な時間を見込んでおく必要があります。中には、特定の相続人が遠隔地に住んでいて印鑑証明書の取り寄せや署名・押印に時間がかかるケースもあります。期限を決めて早めに協力を得ることで、遅延を防ぐことが可能です。
また、被相続人の口座から公共料金などが引き落とされている場合、その支払い方法の変更を早めに検討する必要があります。特に生活インフラに関わる支払いが滞ると困るため、凍結が解除されるまでの一時的な出費をどのように賄うかを考慮することが大切です。
(3)不動産の相続登記
不動産を相続した場合、名義変更の登記手続きを怠ると将来的な売却や融資利用の際に大きな障害となります。相続登記は法律上、2024年4月から義務化されており、相続開始から3年以内に行う必要があります。これを怠ると、10万円以下の過料となります。
正当な相続人であることを証明するためにも早期の手続きが望ましいです。手続きを放置すると、共有者間でのトラブルや第三者への売買で混乱を招きかねません。
登記申請のためには、以下のような書類の収集・作成が必要になります。
①被相続人の出生から逝去までの戸籍・除籍・改製原戸籍
②被相続人の住民票除票
③不動産を取得する相続人の住民票
④不動産の評価証明書
⑤遺産分割協議書又は遺言書
⑥相続人の印鑑証明書
※遺言書がある場合とない場合で必要書類が異なるため、事前に法務局によく確認しましょう
準備する書類は多いですが後回しにすると申請に数か月単位で時間がかかる場合もあるため、書類の収集は計画的に行いましょう。書類不備があると手続きをやり直すことになり、余計な時間がかかってしまいます。
なお、対象となる不動産について、抵当権の有無なども確認する必要があるケースがあります。抵当権の抹消手続きが別途必要になる場合は、専門家に依頼することでスムーズに進められることが多いです。適切なタイミングで登記を完了させておくことで、将来的な相続トラブルを最小限に抑えられます。
(4)弁護士・専門家に相談するメリット
相続手続きが複雑化する場面では、専門家のサポートを受けることでトラブルを回避し、スムーズに相続を完了できます。
相続問題では、利害関係や感情が絡まりやすく、話し合いだけでは解決が難しいことがあります。弁護士や司法書士といった専門家は、法律の知識だけでなく、過去の事例を踏まえた実務経験を活かして円滑に手続きを進めるサポートを提供します。結果的に相続人同士の関係悪化を防ぎ、公平な解決が可能になるという点で大きなメリットがあります。
特に、遺言書の有効性や検認手続きの進め方などは、一般の方が初動で間違いやすい領域です。遺言を勝手に開封するリスクや、検認を怠った場合のペナルティなど、細かなルールを逸脱すると後で大きな問題に発展しかねません。だからこそ、専門家のアドバイスを早めに受けることで、防げるトラブルは多々あります。
さらに、遺留分侵害額請求や遺産分割協議など、無視できない法的な問題が生じた際には、弁護士が代理人として交渉に参加することが可能です。紛争が長引くほど相続財産の分配そのものも遅れ、精神的にも負担が大きくなります。短期間で合理的な解決に至るためにも、専門家には積極的に相談しておくと安心です。
(5)遺言書の有効性や検認手続きのサポート
遺言書がきちんと要件を満たしているか、検認が必要な形式かどうかを判断するのは、初めて相続を経験する方にとって難しい場合があります。弁護士や司法書士に相談すれば、遺言書の形式面だけでなく、その内容が法律の要件を満たすかどうかについてもアドバイスが得られます。これにより、余計なトラブルを回避しながらスムーズに手続きを始められます。
検認手続きでは、裁判所に遺言書を提出し、相続人全員への通知や期日の調整など煩雑な作業が伴います。専門家が書類準備やスケジュール管理を行ってくれるため、相続人自身の負担を大幅に軽減できます。言うまでもなく、過料などの罰則を回避する意味でも、適正な手順を踏むサポートは心強いものです。
また、検認手続きを終えた後でも、遺言書の有効性に争いがある場合は、さらに法的手続きを要することが考えられます。弁護士であれば、家庭裁判所での審判や訴訟手続きにおいて代理人として対応することが可能です。こうした制度を活用して手続きを進めることで、より円滑に相続問題を解決しやすくなります。
(6)遺産分割や遺留分請求の交渉・代理
相続財産が多岐にわたる場合、遺産分割協議をまとめるだけでも高度な知識と調整力が求められます。弁護士は法律の専門家であると同時に交渉のプロでもあるため、相続人同士が対立しそうな場面でも冷静な視点から合意形成をサポートできます。特に、感情的になりやすい親族間の問題では、第三者としてファシリテーションを行う意義が大きいです。
遺留分侵害額請求は一歩間違えると法廷闘争に発展する場合もあり、争いが長期化すると相続人全員に大きな負担がかかります。弁護士に依頼すれば、裁判所での調停や訴訟に移行した際にも一貫して同じ担当者が代理人として動けるため、手続きの混乱を防ぎながら主張を組み立てられます。結果的にスムーズで合理的な解決を目指しやすくなるでしょう。
弁護士費用を負担に感じる方もいますが、多額の相続財産が扱われる場合や、紛争による時間的・精神的コストを考えると、専門家を活用するメリットは十分にあります。早期に依頼すれば、それだけ問題解決の選択肢も増えやすいです。手続きと交渉の両面を専門家が担うことで、相続人同士の関係を必要以上に悪化させずに済む可能性が高まります。
6 まとめ
遺言書がある場合の相続手続きは、形式や内容に応じた確認作業から始まります。手続きを円滑に進めるためには、必要なステップを理解し、専門家と連携して進めることが重要です。
遺言書の有無や種類によって検認の要否が変わり、遺産分割協議や遺留分侵害額請求など、取るべき手続きや確認事項が多岐にわたるのが相続手続きの現実です。特に複数の遺言書がある場合や、一部の財産が未記載の場合は、いっそう慎重な対応が求められます。正しい知識をもとに進めれば、相続人同士のトラブルを未然に防ぎ、スムーズに資産を承継できるでしょう。
また、手続きを誤ると、相続税の加算税や預貯金の凍結解除の遅延、不動産の登記漏れなど、後々大きな不利益が生じる可能性があります。相続は一生のうち何度も経験することではないため、初めての方には難しい場面が多いのが実情です。少しでも疑問を感じたら、弁護士や税理士、司法書士などの専門家へ相談することが望ましいでしょう。
被相続人の意思を尊重しながら、残された家族や相続人が納得のいく形で財産を分割していくには、知識と冷静な話し合いが欠かせません。本記事で解説したポイントを踏まえ、必要に応じて専門家と連携することで、円満な相続を実現する一助となれば幸いです。