第1回:ここが変わる!令和3年民法改正と「所有者不明土地」とは?①
「土地を相続したけれど、自分以外に相続人がいるのかわからない・・・」
「相続した土地について遠方に住む兄弟に相談したいけど連絡がつかない・・・」
このような問題に直面した方は多いのではないでしょうか?
このような人々の身近に存在する重大な問題に対応するために、政府は令和3年にこの問題に関係する法律を改正・制定しました。
令和3年の法改正は大きな改正で分かりにくいですが、まずは今回のコラムで全体像をイメージしてください!
土地や建物をお持ちの方で、相続が発生した方・相続の対策をこれからしておきたい方は、ぜひ一度、ご一読ください。
所有者不明土地とは?何が問題?
所有者不明土地とは・・・
①不動産登記簿をみても、すぐに誰のものか分からない
or
②持ち主は分かるものの、持ち主がどこにいるのか分からず連絡がつかない土地
を指します。
このような所有者不明土地は、日本全国に約410万ha(九州の1.12倍)に上ると言われています。 日本の国土面積は一般的に3780万haと言われているため、実に国土の10%以上が所有者不明土地ということになります。
土地には所有者がいるはずなのに、そもそもなぜ「所有者不明土地」は発生してしまうのでしょうか?主な原因としては・・・
・高齢化の進展や若者の都市部への移住により、地方を中心に土地の所有意識がなくなり、土地を利用したいというニーズが低下したこと
・遺産分割をせずに相続を繰り返し、小口の土地共有者が増えすぎたこと
・・・などが挙げられます。
それでは、このような「所有者不明土地」を放置すると何が問題なのでしょうか?
「所有者不明土地」は一般的に、
①土地の所有者を探すためには多くの費用が必要であり、時間もかかる
②土地の所有者がどこにいるのか分からない場合、土地は誰にも管理されず、放置される
ことが多いと言われています。
ある土地をAさんとその弟であるBさんが相続した場合を考えてみましょう。
Bさんが海外で外国の方と結婚したのちに連絡がとれない場合、AさんがBさんに対して土地の管理や利用を相談することはできませんよね。
今回は極端で単純な例ですが、AさんやBさんが亡くなり、相続が繰り返されると、問題はさらに大きくなっていくことは簡単に想像できます。
このような状況が日本中で生じた結果として・・・・
・公共事業・復興事業が上手に進まない
・土地の取引ができず、有用な土地が利用できない
・土地が管理されないことによって、近隣の土地へ悪影響が生じる
といった問題が発生しました。
この問題は、東日本大震災の復興事業を契機として大きな問題として認識されるようになり、テレビや雑誌等で目にした方も多いのではないでしょうか。
自分も相続人として土地を相続したのに、その土地を管理したり、売却したりすることができない場合は困ってしまいますよね。
このコラムをお読みいただいている読者の方の中にも、このような状況を聞いたことがある方や実際に経験した方がいると思います。
所有者不明土地に関する問題は、高齢化の進展による死亡者の増加などによって、今後ますます深刻化すると言われています。そのような状況の中で政府は、この問題に対処するために法律を見直すことにしました。
ここが変わる!所有者不明土地対策!
令和3年の法改正では、このような所有者不明土地が発生することを防ぐために、
①所有者不明土地を発生させない「発生予防」
と
②今ある所有者不明土地を上手に利用するための「土地利用の円滑化」
の観点からこの問題を解決しようとしています。
それでは、もう少し具体的に改正の中身を見ていきましょう。
発生予防の観点とその注意点
①相続の登記・住居変更の申請が義務化されます! (改正不動産登記法76条の2第1項、同法76条の5同法164条2項:令和6年4月1日施行・令和8年4月27日までの政令で定める日までに施行)
これによって、相続により不動産を取得した人は・・・
「自己のために相続の開始があったことを知り」
かつ
「その土地の所有権を取得したことを知った日から3年以内」
に所有権移転の登記をしなければいけません。 また、正当な理由がないのにも関わらず、所有権の移転の登記の申請をしなかった場合には、10万円以下の過料が科されることになりました。
自分に関係ある相続が開始されたことを知り、土地の所有権を得たことを知ったときから3年以内に相続の登記の申請を怠ると過料(制裁的なお金の負担)が科されてしまうことは必ず覚えておきたいですね。
次回以降で解説していきますが、この改正がされたことで相続登記・住所変更登記の手続が簡素化・合理化され(同法76条の3)、手続が簡単になります。
これに加えて・・・
土地を相続したものの、
・当該土地の周辺に迷惑をかけないために管理が必要なものの負担が大きい・・・
といった人が土地を手放すために
②相続土地国庫帰属制度(相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律:令和5年4月27日施行)が新設されます!
相続土地国庫帰属制度を活用すると、
相続などで土地の所有権を取得した人が、
法務大臣(法務局)で要件の審査や承認を受けた上で、
土地の10年分の管理費用相当額を納付することによって、
その土地の所有権を国庫(国)に渡すことができます。
使わない土地を国が引き取ってくれるのは、とても助かりますよね。
しかし、この制度では次のような土地については申請ができないため、注意が必要です。
・担保権や、使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地
・通路や他人によって利用することが予定されている、一定の土地が含まれる土地
・特定有害物質(土壌汚染対策法第2条第1項に規定)により汚染されている土地
・境界が明らかでない土地や、その他の所有権等について争いがある土地
今回の改正で所有者不明土地が管理しやすくなるって本当?
ここまで見てきた改正は、これから所有者不明土地を発生させないためのものです。ここからは、既にある所有者不明土地等を活用しやすくするための2つの改正についてみていきましょう。
①所有者不明土地・建物管理制度(改正民法264条の2以下:令和5年4月1日施行)が創設されます!
所有者不明土地・建物管理制度は、最も直接的な所有者不明土地対策です。
この制度では、調査を尽くしても所有者や、所有者がどこにいるのかわからない土地や建物について、その土地に利害関係を持つ人が地方裁判所に申し立てることで、土地・建物の管理を行う管理人を選任してもらうことができるようになります。
これに加えて、
②管理不全土地・建物管理制度(同条の9以下:令和5年4月1日施行)についても新設されます!
この制度は、所有者が土地・建物を管理せずに当該土地・建物を放置することによって他人の権利が侵害されるおそれがある場合に、管理人の選任を可能にするための制度です。
所有者が分からない空き地が長期間放置された結果として、雑草が繁茂したり、ゴミが不法投棄されているのを見たことがありませんか?
そのような「管理不全」な土地は近隣の住民の生活を害するあることから、本制度が導入されました。
今回の法改正では、これらの他に・・・
・・・といった制度も盛り込まれました。
次回「ここが変わる!令和3年民法改正と「所有者不明土地」とは?②」では、今回解説した改正について深堀りしていきたいと思います。
【参考文献】
・松嶋隆弘編『民法・不動産登記法改正で変わる相続実務:財産の管理・分割・登記』(ぎょうせい、2021)
・佐久間毅ほか「(座談会)改正の意義と今後の展望」ジュリスト1562号(2021)
・法務省ホームページhttps://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00343.html#mokuji1、
https://www.moj.go.jp/content/001369525.pdf
(2023年3月1日閲覧)
・国土交通省ホームページ https://www.mlit.go.jp/common/001201304.pdf
(2023年3月7日閲覧)