第2回:ここが変わる!令和3年民法改正と「所有者不明土地」とは?②
前回のコラムでは、日本の国土の約10%もの割合を占める「所有者不明土地」についての問題を解消するための法改正が行われたことを解説しました。
日本政府は所有者不明土地をめぐる問題に対応するために、発生予防の観点から相続土地国庫帰属制度を新設する法改正をしたことまでは前回説明しましたが、今回はより具体的に・・・・
「いらない土地を相続したけれど、どうやったら国が引き取ってくれるの?」
「国が引き取ってくれない土地があるって本当?」
「手続は簡単?」
といった身近な疑問について解説していきます。
今回のコラムから、所有者不明土地についての法改正の具体的な内容に入っていきます。土地や建物をお持ちの方で、相続が発生した方・相続の対策をこれからしておきたい方は、必見です。
目次
相続した土地は負(不)動産?いらない土地をめぐる問題
国土交通省と法務省の調査によると、土地を所有することに負担を感じる人は約42%、土地を所有する世帯のうち、土地を国庫におさめたいと希望する世帯は約20%に上ります。
まずは下記のようなケースを考えてみましょう
21××年4月、一人っ子のAさんは大学進学と同時に岐阜県から上京し、大学卒業と同時に東京都内で就職しました。その後24××年に、Aさんは地元岐阜県の土地を数筆、お父さんの実家である北海道の土地を数筆相続しました。これらの土地は岐阜県と北海道の山奥にあり、現在は誰も使用していません。Aさんは不動産会社を訪れ、この土地の処分を相談しましたが、土地の利便性が低いことから買い手が見つからず、処分は難しいだろうと言われてしまいました。
相続土地国庫帰属制度を創設した背景には、このようなケースに見られるように、地方の過疎化や少子高齢化といった社会情勢の変化があります。
ひと昔前であれば、土地だけは手放したくない、代々の土地を子孫に継がせてあげたいという方が多かった印象ですが、現在ではその真逆の減少が発生しているのは驚きですね。
誰でも土地を国に譲渡できるの?
それでは、相続土地国庫帰属制度を利用すれば誰でも土地を手放すことができるのでしょうか?
答えは、「否」です。
土地の管理コストは、本来であれば土地の所有者が負うものです。
無条件に土地を国庫に帰属させることを許してしまうと、国に土地の管理コストを転嫁したり、適切に土地を管理しなくなったりする可能性があります。そこで、ある程度の基準を設けた上で、土地の所有権を国へ譲渡することを認める制度になりました。
無条件でいらない土地を引き取ってもらえる制度ではないことは覚えておきたいですね。
相続土地国庫帰属制度を利用できる人
それでは、具体的にこの制度を利用することができる人をみていきましょう。
相続土地国庫帰属制度を申請することができる人は、原則として、「相続や遺贈(遺言によって財産を処分すること)」によって「土地の所有権」や「共有持分」を取得した「相続人」です(国庫帰属法2条1項)。
この制度は、原則として法人は利用することができないことには注意が必要です。
また、土地が共有地である場合には、持分を取得した相続人を含む共有者全員で申請する必要があることも覚えておきましょう!
申請するための方法
土地を国(国庫)に譲渡するための承認を受けるには・・・・
かつ
必要があります!
この2つの条件に違反した場合、申請が却下されることに注意が必要です。
土地が複数人で共有されている場合はどう申請すればいいの?
土地が複数人で共有されている場合は、その全員で申請する必要があります(国庫帰属法2条2項前段)。
また、土地を共有している人の一部だけが相続・遺言によって共有持分を手に入れた人がいれば、相続・遺言以外で土地の持分を手に入れた人(自然人)であっても、法人(会社など)であっても共同して申請する限りは申請することができます(国庫帰属法2条2項後段)。
相続土地国庫帰属制度を利用できない土地があるって本当?
実は、相続土地国庫帰属制度を利用することができない土地があります。
①建物のある土地
建物のある土地は、建物が老朽化することにより、多額の管理コスト等が発生する可能性があるため、この制度を利用することができません。
②担保権や、使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地
担保権(お金を貸した債権者等が確実に債権を回収するために設定する権利)等がある土地は、土地の権利を主張する債権者が出てきた場合に紛争になる可能性があるため、この制度の対象外です。
③通路や他人によって利用することが予定されている、一定の土地が含まれる土地
通路やため池といった、管理にあたって多くの人が関わる土地は、管理が難しいため、この制度は利用できません。
④特定有害物質(土壌汚染対策法第 2 条第 1 項に規定)により汚染されている土地
汚染されている土地の管理には多額の費用がかかることは簡単に想像できますよね。時と場合によっては人の健康を害する可能性もあります。そのような土地は国としても管理できませんよね。
⑤境界が明らかでない土地や、その他の所有権等について争いがある土地
境界が明らかでない土地等を国に譲渡してしまうと、後々紛争が生じる可能性があり、国としても個々の紛争に対応することはできません。個々の紛争に国民の税金を投入することもできないため、この制度の対象外となりました。
これらの他にも・・・・・・
・放置車両や果樹園の樹木があり、土地の通常の管理や処分ができないもの
・古い水道管など、除去しなければ土地の通常の管理や処分ができないもの
・周りを他の土地に囲まれていて、公道に面していないなど、隣接する土地の所有者と協議(争訟)をしなければ通常の管理や処分ができないと政令で定められているもの
・上記の土地の他に、通常の土地の管理や処分をするのが難しいもの
については、審査の段階で不承認とされてしまうので注意が必要です。
承認が決まった後の手続はどうなるの?
これまで解説してきたような不承認事由がなかった場合、ようやく土地の所有権を国に譲渡(国庫に帰属)することができます(国庫帰属法5条2項)!
申請をして承認された人は、その土地の「10年分」の管理費用に相当する金額を納付する必要があります(国庫帰属法10条1項)。
「10年分」の管理費用とはどれくらいでしょうか?
管理費用は、国有地の種目ごとにその管理に必要とされる10年分の標準的な費用の額を元に政令によって算定されます。
例えば、国有地の標準的な10年分の管理費用は、あまり管理の必要のない原野で約20万円程度、市街地にある200㎡ほどの宅地で約80万円程度です。
管理費用の額が決まり次第、処分を承認する通知(承認処分の通知:国庫帰属法9条)と併せて通知されます(国庫帰属法10条2項)。
もしこの制度を使おうとすると、ある程度まとまったお金が必要ということになりますね。相続土地国庫帰属制度は計画的に利用しましょう。
これらが通知された日から、30日以内に管理費用を納付することで、納付の時点において土地の所有権は国庫に帰属することになります(国庫帰属法11条)。
もし仮に管理費用を納付しない場合は、承認処分は失効してしまう(国庫帰属法10条3項)ため、注意が必要です!
今回は相続土地国庫帰属制度について解説いたしました。
遠方の土地は負(不)動産になるケースが多く、管理や処分にお困りの読者の方も多いのではないでしょうか。
この制度を活用することで、もしかするとそのようなお悩みが解消されるかもしれません。
【参考文献】
・松嶋隆弘編『民法・不動産登記法改正で変わる相続実務:財産の管理・分割・登記』(ぎょうせい、2021)
・国土交通省「平成30年度『土地問題に関する国民の意識調査』概要について」
(https://www.mlit.go.jp/common/001302813.pdf)
・法務省「相続土地国庫帰属制度のご案内」
(https://www.moj.go.jp/content/001390195.pdf)