【相続】第3回:ここが変わる!令和3年民法改正と「所有者不明土地」とは?③
第2回の所有者不明土地についてのコラムでは、相続土地国庫帰属制度の利用方法について解説しました。今回は民法の改正、具体的には、遺産をどのように管理するのか?相続した人の間で共有状態になった場合にどうすれば良いのか?といった問題点について説明していきます。
①相続財産の管理がしやすくなったって本当?②兄弟間で相続財産が共有になってしまったけど、自由に不動産を売却できる?といった疑問をお持ちの方は多いのではないでしょうか。これらの点について順にみていきましょう。
目次
相続した土地が親族間で
共有状態になってしまった!?
管理はどうやる?
まずは、Case1・2のような状況を考えてみましょう。
【Case1】
【Case2】
このように、相続を開始しようとした場合に、千代田区や練馬区の不動産といった相続財産が一時的に共有状態になることが多々あります。
令和3年改正前民法は、共有者の間の利害を調整しつつ、共有物を管理し、有効に利用するための以下のような制度を設けていました。
1 共有物の変更 | 不動産の売却や増築といった、共有物の変更をするには、共有者全員の同意を有する(民法251条)。 |
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2 相続財産の価値を 保存・現状維持(保存行為) | 保存行為は、それぞれの共有者が単独ですることができる(民法252条ただし書)。 |
3 管理に関する事項 | 上記のような、変更や保存行為を除く管理についての事項は、それぞれの共有者の持分の価格に従い、その過半数で決定する(民法252条本文)。 |
令和3年の改正では、このような規制を明確化、具体化することとしました。
それでは、詳しくみていきましょう。
「共有物の変更」とは?具体的事例と改正とそのポイント
まず、Case1をもう一度みてみましょう。
B・C・Dさんが、相続したものの遺産分割が終わっていない千代田の不動産(共有物)に対して、建物部分の増改築を行ったり、不動産そのものを売却したような場合、そのような行為は「共有物の変更」と呼ばれます。
このような「共有物の変更」を行うためには、それぞれの共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができません(令和3年改正民法251条1項)。
例えば、Bさんが不動産を売却しようとした場合には、CさんとDさんに許可を得る必要があります。
しかしCase2のように、共有者の一部がどこにいるのか分からないような状況ではどうすればいいのでしょうか?
令和3年改正民法では、
①共有者が他の共有者を知ることができない場合
②どこにいるのか分からない場合 には、
裁判所は共有者の請求によって、居場所や存在のわからない共有者意外の他の共有者の同意があれば、共有物に変更を加えることができるような裁判をすることを可能にしました(令和3年改正民法251条2項)。
これは、共有者の一部が不明の場合において、「共有物の変更」ができない事態が生じることを避けるための規制です。
つまり、Case2のような場合、仮にEさんやFさんがどこにいるのか分からず、正確な共有者が何人いるのかも分からないような場合であっても、裁判によって解決する道が新しくできました。
「共有物の管理」はどうやる?改正とそのポイント
「共有物の管理」とは、共有物の変更や、保存行為以外のものを指します。
具体的には、相続した不動産について、賃貸借契約を結ぶことや、壁紙を新しくする・キッチンの備品を交換するといった簡単なリフォームを行い、建物の価値を向上させるような行為です。
このような「共有物の管理」は、それぞれの共有者が、どの程度の持分があるか?といった持分の価格をもとに、過半数で決定します。
この点は、改正前と変更はありません。
それでは、共有物、例えば家などに共有者の一部が住んでいたりする場合にはどうすればよいのでしょうか?
令和3年改正民法では、共有物を使用している共有者がいる場合であっても、多数決(過半数)で「共有物の管理」を行うことができるとしました(令和3年改正民法252条1項)。
つまり、仮に相続した不動産に共有者の一部が住んでいたとしても、過半数が同意することによって、「共有物の管理」行為をすることができます。
この点は大きな改正であるため、必ず覚えておきたいですね。
また、Case2のEさんFさんのように、どこにいるのか分からない共有者がいる場合には、共有者が裁判所に対して、EさんFさんを除いた共有者の多数決で「共有物の管理」ができるような請求の裁判をすることができるようになりました(令和3年改正民法252条2項)。
それでは、共有物を現在使用している人がいる場合に、他の共有者との関係はどうなるのでしょうか?
相続対象の故人名義の家に住んでる場合はどうしたらいい?
〜他の共有者との関係性〜
Case1のような場合に、例えば、BさんがAさん名義の家に前から住んでいるとします。
このような場合に、Bさん・Cさん・Dさん間の相続財産についての関係性はどうなるのでしょうか?
令和3年改正民法では、共有物を使用する共有者(Bさん)は、別段の合意がない場合には、他の共有者(Cさん・Dさん)に対して、自分の持分を超える部分については対価を払う必要があるとしました(令和3年改正民法249条2項)。
つまりBさんは、故人であるAさんが持っていた家に一人で住んでいる場合、自分の持分(例えば、家と不動産の半分)を超える部分については、Cさん・Dさんに対価を支払う必要があります。
相続人が多い場合や兄弟間が不仲の場合に、この改正を知らないと揉めることが多そうですね。しっかりと押さえておきましょう。
なお、共有物を使用している共有者(Bさん)は、他の共有者(Cさん・Dさん)との関係では、他人のものを管理している状態であるため、善良な管理者の注意をもって、共有物を使用しなければいけません(令和3年改正民法249条3項)。
共有物を管理する人(「共有物の管理者」)について、新しい制度ができたって本当?
共有物を管理する人について、令和3年改正前民法では規制がありませんでした。
そこで、今回の改正では「共有物の管理者」の制度を新設し、より円滑に共有物を管理できるようになりました。
具体的には、①相続財産の共有者は、「共有物の管理者」を選任・解任することができる、②ただし、共有者の全員の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができないという規定が新設されました(令和3年改正民法252条の2第1項)。
その上で、Case2のように、どこにいるのか分からない人がいたりする場合には、「共有物の管理者」の請求によって、所在不明者等を除いた共有者の同意があれば、共有物に変更を加えることができる旨の裁判を裁判所に提起することができることになりました(令和3年改正民法252条の2第2項)。
それでは、「共有物の管理者」はどのように職務を行うのでしょうか?
「共有物の管理者」は、共有者が共有物の管理についての事項を決めた場合には、それに従ってその職務を行う必要があります(令和3年改正民法252条の2第3項)。
つまり、「共有物の管理者」は、あくまで決定事項を忠実に執行する役割と言えます。
なお、これに違反して行って「共有物の管理者」の行為は、共有者に対して、その効力を生じません。ただし、共有者は、これをもって善意の第三者に対抗することができないと規定されています(令和3年改正民法252条の2第4項)。
分かりやすく説明すると、共有者は自身が選任した「共有物の管理者」が、自分の意に反して行った行為でも、善意の第三者に対しては自分の権利を主張できないということになります。
この点は注意が必要です。
今回のコラムでは、令和3年改正民法のうち、相続財産の共有に焦点を当てて解説しました。相続財産が共有状態になることは多々あり、それによって問題が発生し、揉めることがあります。令和3年の民法改正の大まかな内容は、必ず押さえておきましょう。
参考文献
・松嶋隆弘編「民法・不動産登記法改正で変わる相続実務:財産の管理・分割・登記』(ぎょうせい、2021)
・三平聡史『共有不動産の紛争解決の実務[第2版]』(民事法研究会、2021)