山や森林を相続した際の注意点や必要な手続きを解説
親が亡くなり、相続の手続をしていく中で地方に山林を所有していたことが判明した、というケースも少なくありません。
山林を、明確に自分で使用したいと考えているのであれば問題ありませんが、「相続はしたけれども今後どうしたらよいかわからない」という相談も多いのが実情です。
こういった相談の背景には遠方に住んでいて管理が難しかったり、処分したいけれど通常の土地建物と違って処分できるかわからないといった事情が含まれていると思います。
また、登記簿を取ってみたら親だけでなく何十人もの方と共有していた、というケースもあるでしょう。
本コラムでは、こうした悩みについて、現役の司法書士が解説していきます。
目次
山林を相続したときのメリット・デメリット
山林の相続と聞くと消極的なイメージを持つ方が多いかもしれませんが、実はメリットもあります。
まずは山林を相続した場合のメリット・デメリットを見ていきましょう。
(1) メリット 収益を得られる可能性がある。
相続した山林に、木材として活用できる樹木が生えている場合は、これを売却することで収益を得ることができます。
仮に自分で樹木の伐採や管理が難しいと感じる場合には、代行している業者もいますし、地元の自治体関係でも山林の管理や伐採、売却を行ってもらえることもあります。
また、手続が多く、収益が上がってくるのに時間がかかることもありますが、山林に太陽光発電設備を設置して売電事業をするという事例もここ最近では出てきています。
上記のように有効活用することができれば、山林を相続するメリットがあると言えます。
自分が相続した山林が有効活用できるものなのかどうか気になる方は、一度業者や自治体に相談してみる価値もあると思います。
(2) デメリット 管理負担の大きさ
不動産を相続すると、同時にその不動産について管理責任が発生します。これは山林であっても同様です。
元々の所有者である親が亡くなった後も固定資産税は発生し続けます。
また、山林を適切に管理せずに放置すると次第に荒れ果ててしまいます。そうすると、地盤を支えて保水する力がどんどん低下していき、結果的に土砂崩れや豪雨被害などの災害に結びつく可能性があります。
このような災害が起きた場合に、所有者には管理責任を問われることもあります。
このような管理負担を考えると、仮に利益を生み出すことができても、それまでに手間や費用の負担が大きくなる可能性があることも考慮に入れる必要があります。
相続の手続き
山林を実際に相続する際の手続について解説していきます。
通常の土地や建物であれば、登記簿の名義変更を行えばよいですが、名義変更に加えて市区町村への届出も必要になることに注意しましょう。
(1) 名義変更(相続登記)
親から山林を相続したことを第三者に主張するためには登記簿の名義変更(相続登記)が必要となります。
手続先は、山林の所在地を管轄する法務局となります。自分が住んでいる最寄りの法務局ではないため、管轄法務局については事前に確認が必要となります。
これまでは相続した不動産の名義変更について義務ではなかったため、そのままにする方もいましたが、法改正により2024年4月1日より名義変更は義務となり、相続発生から3年以内に正当な理由なく手続をしない場合には過料が発生することとなりました。
名義変更に必要な書類は、下記のものが一般的です。個々のケースにより必要書類が追加になることもありますので、実際に手続する際には確認が必要です。
①亡くなった方の出生から逝去までの連続した戸籍、除籍、改製原戸籍
②亡くなった方の住民票除票(本籍の記載があるもの)
③相続人全員の戸籍謄本
④名義変更する相続人の住民票
⑤相続人全員の印鑑証明書
⑥遺産分割協議書
⑦山林の固定資産評価証明書
亡くなった方の出生から逝去までの連続した戸籍については、各本籍地の市区町村で取得するため、生涯に何度か本籍を変更している場合は、複数の市区町村にて請求手続が必要となります。
この戸籍の収集作業が面倒に感じる方も少なくありません。
また、住民票の除票に関して、逝去から年月が経ってしまっている場合は市区町村で破棄されてしまっている可能性もあります。
その場合は対象となる山林の権利証など別の書類が必要となります。
(2) 市区町村への届出
山林の相続手続で見落としがちになっているのが、市区町村への届出です。
「森林法」という法律では2012年4月以降、山林の所有者となった場合には、所有者となった日から90日以内に市区町村に届出ることが義務付けられており、正当な理由なく違反した場合には過料が発生してしまうこともあります。
ただし、すべての山林が上記届出の対象になるわけではなく、都道府県が地域森林計画の対象としている山林となるため、自分が相続した山林がこの計画の対象となっているかどうか確認する必要があります。
確認先は都道府県か市区町村の林務担当局となります。
確認の結果、計画の対象となっていれば、適切に届出手続を行いましょう。
なお、届出書の書式は林野庁のホームページで入手することができます。
山林をどうしても相続したくない場合
既に説明した通り、山林を相続するとなると、場合によっては大きな負担となることもあります。山林を相続したくない場合の対処法は主に2つの方法があります。
(1)他の相続人に相続させる
相続人が複数いる場合には「遺産分割協議」といって、相続人の話し合いにより、どの遺産を誰が相続するか決定することになります。
したがって、山林を相続したくない場合は、他の相続人に相続してもらえないか話してみましょう。
ただし、他の相続人も相続したくないと考えていた場合、山林を「負の財産」として扱い、預貯金など他の相続財産の配分を調整するなどして、交渉していくことになります。
(2)相続放棄をする
相続放棄をすれば、はじめから相続人ではなかったことになりますので、山林を相続することはありません。また、上記の遺産分割協議と異なり、ほかの相続人の同意も必要ありませんので、自分の判断のみで手続可能です。
ただし、相続放棄の場合、山林だけでなく、預貯金など他の財産も相続できなくなってしまい、原則として撤回もできませんので、安易に相続放棄を選択せずにしっかりと検討する必要があります。
また、相続放棄をするためには、原則として、自分が相続人となったことを知った日から3カ月以内に、家庭裁判所に申し立てる必要があります。
期限が限られていて、これを過ぎてしまうと基本的に申立てはできませんので、注意が必要です。
終わり
以上の通り、山林の相続については検討すべきことが色々あり、どのような選択をするかによって手続も大きく異なります。
山林を相続したけれどどうしたらよいかわからなくてお困りの方は一度専門家へ相談することをおすすめします。