遺言執行者の制度とは?選任するメリット・デメリットや役割を現役司法書士が徹底解説。
遺言書を作成するときに「遺言執行者」というものを決めておくことが多いです。
遺言執行者とは、簡潔に言うと「遺言書の内容を実現するために必要な手続を行う人」のことです。
遺言書には、作成者の財産について誰が何を相続するのか、債務は誰が負担するのか記載されていることが通常です。
その内容に沿って不動産の名義変更や預金の解約などの各種相続手続き行ったりするなど、遺言書の内容を実現するために必要な一切の行為をする権限があります。
本コラムでは遺言執行者を選任しておく意味や選任した場合のメリット・デメリットを詳しく解説していきます。
目次
遺言執行者を選任するメリット
遺言執行者は、選任してもしなくても、遺言書自体の効力に影響はありません。
しかし、以下のように遺言執行者を選任するメリットがあります。
遺言の効力が発生するのは、当然ですが遺言者が亡くなった後です。
そうすると遺言の効力発生時には本人がいないため、遺言書を相続人が見つけることができない場合や、何らかの事情で遺言書通りに相続手続きが行われない可能性もあります。
遺言者自身も、遺言書作成時にはこういった不安を抱くかもしれません。
遺言執行者を選んでおけば、執行者が遺言書の内容通りに相続手続を行うため、遺言書と異なる遺産分割がされる心配もないですし、仮に異なる内容での遺産分割を相続人が希望していた場合は遺言執行者の同意が必要となります。
遺言書を作成した後は、遺言執行者に遺言書を預けておくのも選択肢の一つだと思います。
遺言執行者を選任するデメリット
遺言執行者として選任する人は、誰でもよいわけではありません。
相続人の確定作業や不動産の名義変更など、専門的な知識がないと難しい手続きもあります。
相続手続きにあまり詳しくない人が執行者となっている場合、任務が適切に行われない可能性もあります。
財産が多岐に渡るような場合には法律の専門家に遺言執行者に就任してもらうのも検討すべきといえます。
遺言執行者の役割
遺言執行者は、遺言者について相続が開始した後、実際に遺言執行者として就任するかどうか回答する義務があり、就任した場合には以下のような役割があります。
(1)遺言執行者に就任した旨を相続人全員に通知すること
従来は相続人全員への通知義務はありませんでしたが、相続人が知らないところで相続手続きが行われていてトラブルになるケースが散見されたため、民法改正により相続人全員への通知義務が課されることになりました。
なお、就任時以外にも相続人から求められた場合は遺言執行の状況について通知する義務があります。
(2)遺言執行に向けての手続開始
①相続人調査(戸籍の収集作業)
②相続財産の調査
③財産目録の作成
④不動産の名義変更(相続登記)
⑤預貯金の解約手続
⑦株式の移管手続き
(3)相続人全員への遺言執行完了報告
以上をもって、遺言執行者の業務は完了となります。
遺言執行者の選任方法
遺言執行者を選任する方法は以下の3つです。これ以外の方法では選任することはできません。
(1)遺言で指定する方法
この方法は遺言者自身が遺言執行者を指定したい場合です。
遺言書に遺言執行者になってもらいたい人の氏名や住所、生年月日などの情報を記載し、その人を「遺言執行者に選任する」と記載しておけば足ります。
これが一番簡単な方法です。
(2)相続人が家庭裁判所に対して選任申立をする方法
この方法は遺言書の中で遺言執行者が選任されていなかった場合です。
家庭裁判所に申立をすることで遺言執行者を選任することができます。
なお、この申立ができるのは、「相続人、受遺者。利害関係人」に限られます。
利害関係人とは、遺言者の債権者などを指します。
申立先は「遺言者の最後の住所地の家庭裁判所」で、以下のような書類の提出が必要です。
①申立書
②遺言者の死亡の記載のある戸籍謄本
③遺言執行者候補者の住民票
④遺言書の写し
⑤利害関係、相続関係がわかる資料(戸籍謄本など)
費用は800円の印紙代と、郵便切手が必要です。
郵便切手の金額や内訳は事前に家庭裁判所に確認が必要です。
(3)第三者に遺言執行者を指定してもらうような遺言書を作成する
遺言者自身で遺言執行者を誰にすればよいのか判断がつかない場合は、第三者に遺言執行者を選任してもらう旨、遺言書に記載しておく方法もあります。
この方法によれば、当該第三者が遺言執行者を選任することが可能です。
遺言執行者を選任したほうがよいケース
前述のとおり、遺言執行者がいなくても遺言の効力に影響はありません。
では、どのようなケースにおいて遺言執行者を選任したほうがよいのでしょうか。
(1)相続人に負担をかけたくない
相続手続の中には平日でないと行えないこともたくさんあります。
例えば、不動産の名義変更は法務局で行いますが、土日や祝日は法務局が閉庁しています。
相続人がまだ現役で仕事をしていたり、遠方に住んでいるなどの事情がある場合は、遺言執行者を選任することも有効です。
(2)相続人での手続に支障がある
相続人では相続手続が不慣れであったり、手続に協力的でない人がいる場合、遺言執行者を選任しておくとよいかもしれません。
(3)子どもを認知する場合
生前に認知するとトラブルが想定されることから認知できない事情がある場合、遺言書で子どもの認知をする遺言認知という手続きをとることができます。
遺言認知の場合、遺言執行者のみ認知の届け出ができるため、遺言執行者を選任する必要があります。
(4)相続人の廃除をしたい場合
特定の相続人に一定の事情があり、相続権を奪う相続人廃除は、生前に手続きをすることも可能ですが、遺言による廃除もできます。
相続人廃除の手続を遺言で行う場合、遺言執行者を選任する必要があります。
終わりに
遺言書は内容通りの相続がされてはじめて意味をもちます。
家族のことを考えて作成する遺言書、決して無駄にはしたくないですよね。
司法書士は遺言執行者に就任することも可能です。
これから遺言作成を検討している、遺言書があるけど遺言執行者が選任されておらず相続手続にも不安があるような場合には一度司法書士や専門家への相談をおすすめします。