前妻の子に相続させない方法とは?相続分や遺留分、生前贈与の注意点を解説
離婚してから全く連絡をとっていなかった前妻の子どもに、自分の財産を相続させたくないと考える方も多いと思います。
法律上、前妻は相続する権利を持っていませんが、前妻との子は相続する権利を持っています。
そのため、現在一緒に暮らしている子どもにだけ相続させたいのであれば、何らかの対策を施す必要があります。
この記事では、前妻の子の相続権について解説したうえで、前妻の子に相続させない方法や注意点について、わかりやすく解説していきます。
目次
前妻の子も相続する権利を持っている
前提として、前妻の子も相続する権利を持っています。
民法では、法定相続分について、「現在の配偶者との間に生まれた子ども」と「前妻との間に生まれた子ども」を特別区別していません。
そのため、たとえ離婚してから疎遠になっていて全く連絡をとっていなかったとしても、前妻の子は相続人として、遺産を引き継げるのが原則です。
法定相続分は「現在の妻との子」と同じ
民法では、相続人と相続分について次のように規定しています。
相続人 | 順位 | 法定相続分 | |
---|---|---|---|
子 | 第1位 | 子(全員で)2分の1 | 配偶者2分の1 |
直系尊属 (両親・祖父母) | 第2位 | 直系尊属(全員で)3分の1 | 配偶者3分の2 |
兄弟姉妹 | 第3位 | 兄弟姉妹(全員で)4分の1 | 配偶者4分の3 |
※ 配偶者は、どの順位においても常に相続人となります。
子どもは第1順位の相続人にあたるため、第2順位・第3順位の相続人よりも優先して財産を引き継ぐことができます。
ここで、具体例を通してそれぞれの相続分を確認してみましょう。
【具体例】
「現在の配偶者」との間に生まれた子ども:長男A、長女B
「離婚した配偶者」との間に生まれた子ども:長男C
相続開始時点でA・B・Cは亡くなっておらず、相続放棄もしないケースを想定します。
相続人 | 相続できる財産の割合 |
---|---|
現在の配偶者 | 2分の1 |
A・B・C | 残りの2分の1を3等分するため・・・・ A:6分の1 B:6分の1 C:6分の1 |
なお、このケースではA・B・Cが相続人になるので、亡くなった方の両親や兄弟・姉妹は相続する権利を有しません。
遺留分もあるので最低限の財産を渡すのが原則
前妻の子には遺留分も認められています。そのため、前妻の子に相続させたくないからといって、相続財産の全てを相続させないことはできません。
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に最低限保証されている、遺産の取り分のことです。
たとえば、「現在の配偶者との間に生まれた子に全て相続させる」という遺言書があったとしても、前妻の子は、法律で認められる遺留分に相当する金額を請求できることになります。
なお、第1順位の相続人における遺留分の割合は次のとおりです。
相続人 | 遺留分 | ||
---|---|---|---|
配偶者のみが相続人の場合 | 子のみが相続人の場合 | 配偶者と子が相続人の場合 | |
配偶者 | 2分の1 | − | 4分の1 |
子(前妻との子) | − | 2分の1 | 4分の1 |
たとえば、①配偶者、②その子ども、③前妻との子ども、の3人が相続人になる場合、②と③の遺留分は子の遺留分である4分の1を2人で分け合うことになるので、それぞれ8分の1ずつとなります。
前妻の子に相続させない7つの方法
前妻との子に財産を相続させないために考えられる主な方法は、次の7つです。
② 死因贈与で財産を引き継がせる
③ 生前贈与であらかじめ財産を渡しておく
④ 前妻の子と遺産分割協議をおこなう
⑤ 前妻の子に相続放棄をしてもらう
⑥ 前妻の子に遺留分を放棄してもらう
⑦ 相続人廃除の手続きをおこなう
以下、それぞれくわしく解説していきます。
① 遺言書で財産を渡す人を明確にしておく
遺言書で財産を引き継ぐ人を明確にしておけば、前妻との子に自分の財産を引き継がせるのを防ぐことができます。
自分の財産を誰に引き継がせるかは、本来自分自身で決めるべきです。遺言書があれば、亡くなった本人の意思を明らかにできるので、遺言書の内容が法定相続分に優先することになるのです。
ただし、前述のように、前妻の子には遺留分が認められています。たとえ、遺言書で「全財産を配偶者とその子に相続する」と記載されていても、法律で認められた遺留分相当額については支払いを請求されてしまう可能性があることに、注意が必要です。
② 死因贈与で財産を引き継がせる
遺言書と同じように、死因贈与で財産の受取人をあらかじめ決めておくのも良いでしょう。
死因贈与とは、「自分が亡くなったら財産を長男に全て相続させる」などの約束を、生前に取り交わしておくことです。
遺言書で財産を相続させる場合、法律で定められている要件を満たさない場合には、遺言書そのものが無効になってしまうおそれがあります。
一方、死因贈与であれば、そこまで厳格な要件は要求されないため、死因贈与そのものが無効になってしまうリスクはかなり低いといえるでしょう。
ただし、遺言書と死因贈与のどちらを選択すべきかは専門的な判断が必要になるので、専門家である司法書士などの判断を仰ぐことをおすすめします。
③ 生前贈与であらかじめ財産を渡しておく
生前贈与であらかじめ自分の財産を配偶者やその子に渡しておけば、相続の際に前妻の子に相続される心配もありません。
相続の対象になるのはあくまでも相続人名義の財産であり、すでに誰かに贈与している財産は相続の対象にはならないからです。
一方、生前贈与が「特別受益」に該当する場合、被相続人が亡くなったときから10年以内にされた生前贈与は、遺留分の計算をする際の相続財産に含めて計算することになります。
つまり、遺留分として請求される金額が大きくなる可能性があるのです。
少しでも前妻との子に財産を残さないようにするには、10年以上前から財産整理をおこなう必要があるといえるでしょう。
④ 前妻の子と遺産分割協議をおこなう
被相続人が亡くなったあと、遺産分割協議で前妻の子に財産を相続させないようにすることも可能です。
遺産分割協議とは、相続財産をどのように分配するかについて、相続人全員で取り決めをおこなうことです。
前妻の子と連絡が取れていて、協力が得られそうであれば、遺産分割協議で自身の相続分を放棄してもらうことも可能です。
ただし、自身の取り分を放棄することになるので、被相続人が多額の借金を抱えて亡くなったなどの事情がない限り、協力を取り付けることが難しいケースも多いです。
その場合、遺産分割協議ができないだけでなく、前妻の子に内緒で遺産を分配したとして、あとになって遺留分侵害額請求訴訟を起こされる可能性もあるでしょう。
⑤ 前妻の子に相続放棄をしてもらう
前妻の子と連絡が取れるのであれば、相続放棄してもらうことも検討すべきでしょう。
相続放棄とは、遺産を相続する権利を放棄する手続きです。
前妻の子が自身の意思で財産を手放してくれれば、ほかの相続人で財産を分配することができるのです。
ただし、相続放棄は家庭裁判所に申述によっておこなう必要があるので、前妻の子の協力を得られない場合には、手続きを進めることは困難です。
また、自身が相続財産を独占するために、前妻の子に「預貯金や不動産などのプラスの財産はなく、多額の借金があったから相続放棄した方が良い」などと嘘の情報を伝えて相続放棄させた場合には、あとから相続放棄を取り消されてしまう可能性もあります。
なお、相続放棄は「自分のために相続の開始があったことを知ったときから3ヵ月」以内におこなう必要があるので、時間の猶予があまりないことにも注意が必要です。
⑥ 前妻の子に遺留分を放棄してもらう
相続放棄と同じように、家庭裁判所をとおして遺留分放棄の手続きをしてもらうのも良いでしょう。
遺留分の放棄をしてもらえれば、あとから「遺留分侵害額請求」をされる心配もなくなります。
ただし、遺留分の放棄は、法律で認められる最低限の取り分を自ら放棄する行為です。
前妻の子が、相続トラブルに巻き込まれたくないと考えている場合など、何かしら特別な事情がない限り、手続きをおこなってもらうのは難しいと考えておくべきでしょう。
⑦ 相続人廃除の手続きをおこなう
一定の事由が認められれば、「相続人排除」と呼ばれる手続きで、前妻の子が持つ相続する権利を剥奪することができます。
前妻の子が、被相続人のことを虐待していた場合や、過度なモラハラ・パワハラを長年に渡っておこなっていた場合には、この手続きを利用して前妻の子に相続させないようにもできるでしょう。
ただし、家庭裁判所に申し立てたからといって、必ずしも全てのケースで排除が認められるわけではなく、証拠や虐待・パワハラ・モラハラの程度によっては、排除が認められない可能性もあります。
相続人廃除が認められるのは、一定の場合に限られることを頭に入れておきましょう。
前妻の子に相続させないときの3つの注意点
前妻の子に相続させない対策をとる際には、次の3つの点に注意するようにしてください。
● 相続人として徹底的に争ってくる
● 遺留分侵害額請求で裁判になることも
できる限りスムーズに相続に関する手続きを進めるためにも、これから解説する点についてはしっかり頭に入れておくようにしましょう。
前妻やその子どもと連絡が取れない
前妻やその子どもの所在がわからず、連絡が取れないケースがあります。
被相続人が定期的に前妻の子と交流を持っていれば、携帯電話に連絡先が保存されているケースもあるでしょう。
しかし、離婚してから1度も連絡をとっておらず、現在どこに住んでいるかすらわからないような場合には、遺産分協議をおこなったり、前妻の子に相続放棄や遺留分の放棄をしてもらうことが困難になります。
前妻の子の住所については、戸籍の附票等から調査することもできますが、いきなり書面を送っても、不信がられて応じてくれない可能性が高いでしょう。
専門家である司法書士なら、前妻の子に対して連絡をおこない、こちらが望む対応をしてもらえるよう説得することもできます。対応に困ったら、1度相談してみることをおすすめします。
相続人として徹底的に争ってくる
前妻の子が第1順位の相続人として徹底的に自身の権利を主張してくることで、相続人同士の揉め事に発展する可能性もあります。
前述したように、前妻の子も、現在の配偶者との間に生まれた子と同様の相続分と遺留分を持っています。
とくに相続財産が多い場合には、相続放棄や遺留分の放棄には納得してもらえず、法定相続分通りに財産を分配するよう主張してくる可能性が高いでしょう。
相続財産を隠したり、金額を偽ったりすると、遺産分割調停を起こされるなど、トラブルが長期化するおそれがあります。
「連絡もとっていない前妻の子に相続させたくない」などと、感情的な理由のみで勝手に相続人から外して手続きを進めるのではなく、前妻の子も交えてしっかり話し合いをおこなうことが大切です。
遺留分侵害額請求で裁判になることも
前妻の子に連絡をせずに勝手に相続財産を分配した場合、あとあと自身の遺留分を侵害されたとして、「遺留分侵害額請求」を起こされてしまう可能性があります。
前妻の子に相続させないつもりで遺言書を作成したり、生前贈与や死因贈与で、財産の全部を現在の配偶者との子に相続させた場合には、侵害した遺留分相当額の金銭の支払いを要求される可能性があります。
前妻の子は、相続権も遺留分も認められる相続人の1人です。
相続手続きをおこなう場合には、財産調査だけでなく相続人調査もしっかりおこない、前妻の子も含めて遺産分割をおこなうようにしましょう。
「前妻の子」との相続でよくある質問(Q&A)
前妻に相続権はある?
前妻との間に生まれた子は相続人になれますが、前妻は相続人にはなれません。
前妻とは離婚している以上、相続財産を引き継がせるだけの関係が認められません。
一方で、たとえ離婚していても、前妻との子は自分の子どもである以上、財産を相続する権利があると考えられています。
ただし、前妻の子が未成年の場合、法定代理人である前妻が遺産分割などの手続きを代理することになります。
前妻の子は生命保険を受け取れる?
生命保険は、受取人に指定されている人固有の権利です。そのため、相続人である前妻の子でも受け取ることができます。
一方、生命保険は、遺産分割協議や遺留分の対象になりません。
そのため、生命保険の受取人を現在の配偶者やその子どもにしておけば、前妻の子に取られない多額の財産を残すことができるでしょう。
被相続人が亡くなったことを前妻の子に連絡しなくても良い?
あとあとトラブルになるのを避けるためにも、前妻の子に内緒で手続きを進めるのは避けるべきです。
相続が開始したからといって、前妻の子に報告する義務があるわけではありません。
一方で、遺産分割協議は相続人全員でおこなう必要があるので、前妻の子抜きで相続手続きを進めることはできません。
勝手に財産を処分すると遺産分割調停や遺留分侵害額請求などの裁判を起こされてしまう可能性もあります。
余計なトラブルを避けるためにも、前妻の子と連絡が取れないからといって、知らない間に相続財産を分配するのは避けてください。
法律の専門家に相談を!
前妻の子に相続させたくないのであれば、専門家に相談してみることをおすすめします。
相続手続きに精通した法律家であれば、連絡が取れない相続人と連絡をとったり、相続放棄や遺留分の放棄をしてもらえないか説得できます。
また、当事者間ではまとまらない遺産分協議をまとめたり、遺産分協議書の作成や遺言書のアドバイスをもらえるのも、司法書士に依頼するメリットの1つです。
さらに、贈与税や相続税の面からみた手続きの進め方や、相続した不動産の登記申請まで頼めるので、相続に関する悩みをワンストップで解決できるでしょう。
前妻の子に相続させたくない、相続財産の中に不動産が含まれていてどうやって分割すればいいのかわからない、など相続に関する悩みがある場合には、一度相談するのが良いでしょう。
まとめ
前妻の子も相続人である以上、現在の配偶者との間に生まれた子と同様に、相続権や遺留分が認められます。
遺言書や生前贈与なら、前妻の子に引き継がせる財産を最小限にすることはできますが、遺留分を侵害した場合、遺留分侵害額請求を起こされてしまう可能性があります。
遺留分すら相続させないためには、前妻の子に、相続放棄や遺留分の放棄をしてもらう必要がありますが、自身の取り分を手放す行為でもあるので、素直に説得に応じてくれるかはわかりません。
もし、前妻の子と連絡が取れなかったり、交渉が難航した場合には、相続手続きの専門家に相談することをおすすめします。