【相続した不動産を売却したい】その場合、相続登記は必要なの?売却時の税金等についても解説
相続の手続をする際によく問題になるのが土地や建物といった不動産です。
例えば進学や就職を機に上京し、実家にはご両親しか住んでいないような方に相続が発生した場合、誰も住まなくなった土地や建物をどうするかが問題となります。
簡単に人に貸したりできたらよいのですが、実務上は自分の住んでいた家を貸せる人を簡単に見つけることができるケースは稀です。
住んでいた人が亡くなったことによって、空き家となった実家などの不動産を相続したけど売却したい。不動産以外に目ぼしい財産がないので売却して現金に変えたいと考えている方も多いのではないでしょうか。
今回のコラムでは、相続した不動産を売却する際に相続登記は必要なのか、売却するときに税金はかかるのかについて解説していきます。
目次
相続した不動産を売却するまでの流れ
まず、不動産を相続した場合に、どうやって売却し、その代金を分配するのかについてみていきます。
不動産を売却して、その代金を分配するのは主に次の4つのステップをとります。
Step1:戸籍を集め、相続人間で遺産分割協議を行い、相続分を決める
Step2:相続の手続を進める代表者を相続人の中から1人決める
Step3:代表の相続人に不動産の名義を変更する(相続登記の申請)
Step4:不動産会社を通じて不動産を売却し、その代金を相続人で分ける
Step1:戸籍を集め、相続人間で遺産分割協議を行い、相続分を決める
Step1は、遺言書があるか否かで若干の違いがあります。
遺言書があり、それが有効な場合は、基本的にはその内容通りに遺産分割が行われます。
ただし、相続人の全員が合意すれば遺言書の内容と異なる遺産分割ができます。
また、場合によっては遺言の無効が主張されて、そもそも遺言の効力がなくなる可能性もあります。これについては十分注意をするようにしましょう。
※遺言の効力が否定された場合は、下記の遺産分割協議に進むことになります。
有効な遺言書がなく、相続人が複数人いる場合は遺産分割協議を行うことになります。
遺産分割の協議では、故人が遺した相続財産全てについて、誰が何をどのくらい相続するのかを決めます。
その際に不動産を売却する場合は、売却後の代金の分配についても決めます。
Step2:相続人の代表者を1人決める
相続や売却の手続は、相続人全員で行うわけではありません。
相続人のうち誰か1人、代表者を選び、その人が手続きを進めていくのが一般的です。
この際に重要なのは、後々揉めないように、相続人全員になるべく中立な人を選ぶことです。
代表者を選ぶ際に、相続人全員が話し合い、納得することが大事です。
Step3:代表の相続人に不動産の名義を変更する(相続登記の申請)
相続した不動産を売却するには、必ず、相続人に不動産の名義を変更(相続登記)する必要があります。
相続人が複数名いる場合は、遺産分割協議にて代表相続人を一人選任して、その人に相続登記をした上で、代表相続人名義から第三者に売却するケースが多く見られます。
代表相続人を選任する理由としては、売却に伴う契約の締結や登記の必要書類の準備等を相続人全員で行うよりも、相続人の一人が代表して、これらの手続きを行う方が、スムーズに手続きを進められる上、他の相続人の負担もなくすことが可能だからです。
なお、2024年4月から、下記の通り、相続登記が義務化されました。
①遺言を含む相続によって不動産を手に入れた相続人は、そのこと(不動産の所有権の取得)を知った日から3年以内に相続登記の申請をする必要があります
②遺産分割が成立した場合には、これによって不動産を手に入れた相続人は、遺産分割が成立した日から3年以内に、相続登記をする必要があります
③上記①と②の両方で、正当な理由がなくこの義務に違反した場合は、10万円以下のペナルティの対象となります
※③の「正当な理由」とは、あまりに多くの相続人がおり、戸籍謄本といった資料を集めることや、他の相続人を調べるのに多くの時間が必要なケースが挙げられます。
Step4:不動産を売却して、その代金を相続人で分ける(換価分割)
相続登記が完了した後は、相続した不動産を売るための手続きを行います。
不動産に買い手が見つかり、売買契約が締結された後はその代金を受取り、代金を相続人間で分けます。
その際に、相続人から買い手へ所有権移転の登記を申請します。
また、売却金額を相続人間で振り分ける方法を換価分割といいます。
換価分割を行う際は、必ず遺産分割協議書にその旨を記載する必要があります。
記載しないと、売却金額を振り分けた際に、「贈与税」とみなされてしまうため、注意が必要です。
相続登記に必要になる主な書類
相続登記をする際には、多くの書類が必要になります。
相続人が多くいる場合は、これらの書類を揃えるだけでもかなりの労力と時間が必要になります。
それだけでなく、書類を揃える際に新たな相続人が見つかったり、疎遠になっている相続人と連絡が取れないなど、多くの問題が発生したりすることも珍しいことではありません。
相続登記の準備はなるべく早くから取り掛かる必要があります。
相続登記に必要な主な書類の例は次の通りです。
①遺産分割協議書
②相続人の印鑑証明書
③相続人全員の戸籍謄本
④被相続人の出生時から死亡時までの戸籍謄本
⑤被相続人の住民票の除票
⑥不動産を取得する人の住民票
⑦その年度の相続する不動産の固定資産税評価額証明書
⑧収入印紙
⑨相続登記申請書
※遺言をもとに相続行うのか、遺産分割協議によって相続を行うのかによって必要な書類が若干変わってくるため注意が必要です。
相続した不動産を売却する時にかかる税金は?
多くの方にとっての関心事として、相続した不動産を売却する際にかかる税金が挙げられるのではないでしょうか。
相続した不動産を売却する際にかかる税金として挙げられる代表的なものは、①譲渡所得税(住民税含む)と②印紙税です。
譲渡所得税
そもそも譲渡所得税とは、主に土地や建物、株式、ゴルフ会員権などの資産を、他人に譲渡する際に、発生する所得のことをいいます。
※譲渡所得には、事業用の商品といった棚卸資産や山林などの譲渡による所得は含まれません。
計算方法
譲渡所得の計算方法は次の通りです。
税金がかかる譲渡所得金額=収入金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額
まず、収入金額とは、土地や建物を人に譲り渡す時の対価として買い手から受け取る金額(売却金額)を指します。
ここでは、純粋な譲渡の対価とは別に、不動産の譲渡から年末までの期間に対応する固定資産税および都市計画税(未経過固定資産税等)に相当する額の支払を受けた際は、その金額が加算されます。
※お金ではなく、物や権利を受け取った場合もその時価が収入金額となり、事後的に資産を渡すことで、その他の経済的な恩恵を受けた場合は、それの金額も加算されます。
次に取得費用とは、売った土地や建物の購入代金や建築代金、購入手数料、設備費や改良費が該当します。
建物の取得費は、購入代金または建築代金等の合計の金額から、所有期間中の減価償却費(取得費を分割して、何年かにわけて経費にする費用)に相当する額を差し引いた金額になります。
その他の取得費としては主に下記のものがあります。
①土地や建物を購入したときに納めた登録免許税、不動産取得税、特別土地保有税(取得分)、印紙税 ※贈与や相続、遺贈による取得も含みます
②借主がいる土地や建物を購入する際に、借主に退去してもらうために支払った費用
③土地を埋め立てたり、土盛り、地ならしをするために支払った費用
④土地を取得する際に支払った土地の測量費
⑤所有権を手に入れるためにかかった訴訟費用
⑥建物が建っている土地を購入したが、その後約1年以内にその建物を取り壊すなど、最初から土地の利用が目的であったと認められる場合の建物の購入代金や取壊しの費用
⑦土地や建物を買うためにお金を借りた場合、その資金の利子のうち、その土地や建物を実際に使い始める日までの間の期間に対応する部分の利子
⑧既に締結されている土地などの購入を解除して、ほかの物件を買うことにした場合に発生する違約金
さらに、譲渡費用とは、その名の通り土地や建物を売るために直接かかった費用のことを指します。主なものは次の6つです。
①土地や建物を売るために支払った仲介手数料
②売主が負担した印紙税
③他人に貸している家を売るために、家を貸している人から家を明け渡してもらう時に支払う立退料
④土地などをうるために、その上の建物を取壊した際の取壊し費用とその建物の損失額
⑤既に売買契約を締結している資産を、さらに有利な条件で売るために支払った違約金
⑥借地権を売る際に、地主から許可をもらうために支払った名義書換料
最後に、相続した建物を売却した際に使える特別控除は次の2つです。
①自分が住んでいる家を譲渡した場合の3000万円の特別控除
②相続した空き家を譲渡した場合の3000万円の特別控除</b >
まず①は、自分の住んでいる家を売却した場合、一定の要件を満たした場合に、最大で3000万円まで譲渡所得から控除できる制度です。
「一定の要件」はいくつかありますが、一番大事な要件は、「実際に住んでいる家」かどうかです。この制度では空き家は対象とはなりません。
また、この特例の適用を受けることだけを目的として住んでいた家や、住むための家を新築する期間中だけ仮の住まいとして使った家、その他の一時的な目的で住んでいた家、別荘などのように趣味や娯楽、保養のための家は、特例の対象外です。
次に②は、相続人が故人から空き家を相続し、その建物と土地を売却した場合に、一定の要件を満たすときは譲渡所得から最大3000万円まで控除できる制度です。
この制度で重要な要件は、その空き家が、相続開始の直前に故人が1人で住んでいた家であるということです。
税率
譲渡所得税は、その不動産所有期間によって税率が変わってきます、基本的には5年を基準として次の2通りに分かれます。
所有期間 | 所得税等 | 住民税 | 計 |
5年以下 | 30.63% | 9% | 39.63% |
5年超 | 15.315% | 5% | 20.315% |
印紙税
印紙税とは、土地や建物を売る際に作成する契約書の作成時にかかる税金です。
契約書に記載されている契約金額が高くなればなるほど、印紙税も高くなります。
印紙税の計算方法は原則として次の通りです。
契約書に記載された金額 | 印紙税 |
1万円未満 | 非課税(0円) |
10万円以下 | 200円 |
10万円を超え、50万円以下 | 400円 |
50万円を超え、100万円以下 | 1000円 |
100万円を超え、500万円以下 | 2000円 |
500万円を超え、1000万円以下 | 1万円 |
1000万円を超え、5000万円以下 | 2万円 |
5000万円を超え、1億円以下 | 6万円 |
1億円を超え、5億円以下 | 10万円 |
5億円を超え、10億円以下 | 20万円 |
なお、家などを売却する際に不動産会社に仲介を依頼した場合、仲介手数料に対して消費税がかかるなど、この3つ以外にもいくつか税金がかかる場合があります。
税金種類を自力で把握したり計算したりすることは大変難しいため、税理士に相談することをおすすめいたします。
おわりに
今回のコラムでは、相続した不動産を売却する際の相続登記や税金について解説しました。
まず、相続した不動産を売却する際は相続登記が必要になります。
登記をするだけなら簡単と思う方もいるかもしれませんが、相続登記は普通の登記とは異なります。
相続人に関する戸籍などの書類を集めるのも大変ですが、相続人と連絡がとれずに遺産分割協議書を作成できないといった問題、そもそも相続人がしっかりと分からないといった問題が発生するケースが多々あります。
不動産を相続し、売却を検討している方は、なるべく早く手続をはじめる方が良いです。
その際に司法書士といった登記の専門家にいち早く相談すると、スムーズに手続が進むこともあります。一度司法書士事務所に足を運んでみてはいかがでしょうか。
また、不動産を売却する際には税金がかかることがあります。
譲渡所得税をはじめとして、印紙税や消費税など、複数の税金が状況に応じて課されます。
自分が払うべき税金の種類と額を把握することは難しいため、税金関係は税理士に相談することをおすすめします。
相続した不動産を売却し、現金化することによって、相続財産を相続人の間で分配しやすくなりますが、現金化するまでに労力がかかるケースが多いです。
このような事態を防ぐためにも、事前に相続対策しておくことも考えておいた方が良いかもしれません。