遺産分割協議書とは?作成が必要な理由と注意点も解説
複数の相続人で遺産を相続する場合、遺言書がなければ、相続人同士の話し合い(遺産分割協議)によって遺産の分け方を決めることになります。
後々の証拠とするため、また、相続税や相続登記の必要書類として用いるため、遺産分割協議での合意内容は書面(遺産分割協議書)で残しておくようにしましょう。
本コラムでは、「相続で必要な遺産分割協議書の作成方法や作成時の注意点」について解説します。
目次
遺産分割協議書の概要
相続人が複数いる場合(遺産分割)
相続開始時点(被相続人が亡くなったとき)の家族構成やいわば家系図の状況によっては、相続人(被相続人の財産を相続する人)が複数いるケースもあります。例えば、被相続人(亡くなった方)の配偶者と子ども(または兄弟姉妹)が相続人になる場合や、被相続人に子どもが複数いる場合などです。
なお、被相続人に配偶者がいる場合、配偶者は原則として相続人になります(民法890条)。一方、子ども、孫、兄弟姉妹、父母などその他の親族は法定の優先順位に従って相続人になります(民法887条、889条)。相続人の優先順位について、詳しくは国税庁のホームページをご参照ください。
相続人が複数いる場合、まずは相続財産を、相続人全員が共有する形式で引き継ぐことになります。この段階ではどの相続人も、相続財産を個々人の意思や判断で処分したり消費したりはできません。その後、次のいずれかの方法で相続財産の分け方を決め、ようやく相続財産が相続人ひとりひとりに帰属します。
遺言書がある場合→原則として、遺言書の内容に従う
遺言書がない場合→相続人の間で話し合って決める(遺産分割協議)
遺産分割協議では、相続人全員で、例えば次のようなことを話し合い合意します。
・相続財産をどのような割合で分けるか
・どの相続財産を、誰が相続するか
・相続財産に不動産、動産、株式など分けにくい財産がある場合はどうするか
・ある相続人が被相続人から生前に贈与された財産を相続にどう反映するか
・ある相続人が被相続人の生前に介護や援助をしたことを相続にどう反映するか
・相続財産に借金などマイナスの財産がある場合、それを誰が引き受けるか
なお、不動産、動産、株式などを分けるには、主に、相続人の一人が財産をまるまる相続しその代わり他の相続人に代償金を支払う方法(代償分割)、財産を売却しその対価を分ける方法(換価分割)、財産を相続人で共有する方法、土地を分筆するなどして財産を現物のまま分ける方法(現物分割)があります。
遺産分割協議書とは
遺産分割協議書とは、遺産分割協議で合意した内容を記録する書面です。
詳しくは後述しますが、遺産分割協議書は相続税の申告や相続登記の必要書類に含まれる他、後々起こりうる「言った、言わない」のトラブルを防止する意味もあります。また、合意内容に、代償金の支払いなど相続人間での権利義務関係が含まれる場合、遺産分割協議書を公正証書として作成した方が安心なケースもあります。
相続で遺産分割協議書の作成が必要な理由
遺産分割協議書が必要な理由は、主に次の4点です。
・相続税申告の手続きに必要
・不動産を相続した場合、相続登記の手続きに必要
・合意した内容につき、後々のトラブルを避けることができる
・公正証書の形式で作成することで、遺産分割協議書により強い証拠力と執行力とを持たせることができる
以下、順に解説します。
相続税申告の手続きに必要
遺産を相続した相続人は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10カ月以内に、相続税の申告と納税とをする義務があります。その際、その相続人がどれだけの財産を相続したのか確認するための資料として、遺産分割協議書が必要になります。
相続財産の内容や相続人それぞれの事情によって、遺産分割協議が長引いてしまうケースもよくあります。相続税申告の期限に間に合うよう、相続が開始されたらなるべくお早めに遺産分割協議の準備を始めてください。
不動産を相続した場合、相続登記の手続きに必要
相続によって不動産を取得した相続人は、その旨を公示するため、相続した不動産の相続登記をしなければいけません。なお、2024年4月1日から相続登記の申請は義務化されており、怠ると10万円以下の過料(行政上の罰金)が科せられる場合があります。
相続登記の申請を行う際は、申請書の他に、相続によって不動産を取得した事実を証明するための添付書類として、遺産分割協議書を法務局へ提出する必要があります。
参考:法務局|登記申請手続きのご案内(相続登記①/遺産分割協議編)
合意した内容につき、後々の行き違いやトラブルを避けることができる
遺産分割協議は、遺産分割協議書を作らず、参加した相続人全員が口答で合意をするだけでも成立します。ですが、口答だけの合意では、お互いの記憶違いや認識の違い、言葉の意味の取り違えなどにより、相続の内容について後々、「言った、言わない」の疑義が生じてしまう可能性があります。
このような事態を避け、相続をスムーズに終わらせるためにも、やはり遺産分割協議での合意内容は、書面(遺産分割協議書)で残しておかれる方が安心です。
公正証書の形式で作成することで、遺産分割協議書により強い証拠力と執行力とを持たせることができる
遺産分割協議での合意内容には、特定の相続人に義務を課す内容が含まれる場合があります。例えば、不動産XをABC3人の相続人が相続する場合、遺産分割協議の結果、「不動産XはAの単独所有とする。代わりに、AはBCそれぞれの相続分に相当する額を代償金として支払う」と合意したようなケースです。この場合、AはBCそれぞれに対し、代償金を支払う義務を負っています。
このようなケースでは、「Aが代償金を支払わない場合は強制執行に服する」などの強制執行受諾文言を記載した遺産分割協議書を公正証書で作成することがあります。そうすることによって、万が一、Aが代償金の支払いを怠った場合、BCはこの遺産分割協議書を根拠に、Aに対し直ちに強制執行ができます。改めて裁判などの手続きを経る必要はありません。
また、公正証書による遺産分割協議書は公証役場の公証人が信頼性を担保した文書ですので、相続人のみで作成した通常の遺産分割協議書よりも、証拠としてより強い効果があります。そのため、遺産分割協議後にもめ事やトラブルが予想されるケースでは、念のため、遺産分割協議書を公正証書で作成しておくとより安心かと思います。
なお、公正証書の作成は司法書士に依頼することができます。もし作成をお考えの場合には、当事務所へご依頼ください。
遺産分割協議書の作成方法
遺産分割協議書の書式
遺産分割協議書の書式は自由です。用紙のサイズ、縦書き・横書き、文字のサイズ、記載する情報の順番などに決まりはありません。また、遺産分割協議書はパソコンでも、手書きでも作成することができます。決まりではありませんが、実務上はA4サイズの紙を使ってパソコンで作成するケースが一般的です。
ご参考までに、法務局が不動産登記申請に必要な遺産分割協議書の記載例を、国税庁が相続税の申告に必要な遺産分割協議書の記載例をそれぞれ公開しています。
参考①法務局|相続(遺産分割のとき)記載例 ※遺産分割協議書の記載例は3ページ目にあります。
参考②国税庁|相続税の申告書の記載例 ※遺産分割協議書の記載例は36ページ目にあります。
遺産分割協議書への押印の仕方
遺産分割協議書には相続人全員の署名押印が必要です。
「署名」とは、相続人本人が手書きで自分の名前を書くことです。また、押印には必ず実印を使ってください。その理由は、添付資料として印鑑証明書が必要とされるからです。印鑑証明の登録がある実印を押印の印鑑をとしてお使いください。
遺産分割協議書が複数枚にわたる場合には、ページの間に、押印に使ったのと同じ印で契印をすることをお勧めします。これには、押印済みの遺産分割協議書についてページの差し替えなどが行われていないことを証明する目的があります。
また、契約書を製本すれば契印の数を減らすこともできます。製本の仕方についてはインターネットでも簡単に調べられますので、お試しください。
遺産分割協議書に記載すべき事項
遺産分割協議書には、次の事項を記載します。以下、順に解説します。
・作成日付
・相続人を特定する情報
・被相続人を特定する情報
・相続財産を特定する情報
・遺産分割協議で合意した内容
・後日判明した財産の取り扱い
作成日付は、和暦でも西暦でもどちらでも大丈夫です。
相続人を特定する情報は、必ず、全員分記載してください。
また、氏名だけではなく、「妻 ○山×子」「長女 ○山△子」のように被相続人との続柄まで書くようにしてください。
被相続人を特定する情報については、亡くなった方の氏名、逝去日、最後の住所、本籍地などを記載します。
相続財産を特定する情報は、財産の種類によって異なります。
・預貯金であれば銀行名、支店名、口座番号、名義人の名前を書いて特定します。
・土地の場合はその所在地、地番、土地の種類、地積を登記簿謄本(不動産全部事項証明書)に記載されたとおりに書きます。
・建物の場合はその所在地、家屋番号、建物の構造、面積を登記簿謄本(不動産全部事項証明書)に記載されたとおりに書きます。
・株式など有価証券については、預けている証券会社名、発行会社名、株式数を記載して特定します。
・借金などの債務については、債権者(借入先)、契約内容、債務残高を記載します。
遺産分割協議で合意した内容については、「誰がどの財産をどれだけ相続するか」「誰がどの債務を引き受けるか」「代償金の支払い」などを抜け漏れなく記載しましょう。
実際の記載イメージ
以上を前提に、遺産分割協議書の文言を仮に作成すると、次のようなイメージになります。
遺産分割協議書
被相続人 ○山×男(XXXX年XX月XX日生まれ)
死亡日 XXXX年XX月XX日
本籍地 ○○県△△区X丁目X番地
最後の住所地 ○○県△△区X丁目X番地
被相続人○山×男の遺産相続につき、被相続人の妻・○山×子、被相続人の長女・○山△子、以上相続人全員が遺産分割協議を行い、以下の通り遺産分割の協議が成立した。
1,○山×子は次の遺産を取得する。
① 土地 ○○県△△区X丁目X番 宅地 XXX,XX平方メートル
② 建物 ○○県△△区X丁目X番 家屋番号XX番 居宅 木造かわらぶき2階建/1階部分 XX・XX平方メートル、2階部分XX・XX平方メートル
③ 預貯金 ○○銀行△△支店 普通預金 口座番号:XXXXXX 口座名義人:○山×男
2,○山△子は次の遺産を取得する。
(以下略)
遺産分割協議書作成の注意点
遺産分割協議書を作成する際は、以下の点に注意が必要です。
○遺産分割協議は必ず相続人全員で行い、遺産分割協議書には必ず相続人全員の署名押印をしましょう。遺産分割協議は相続人全員で行うというルールがあり、一人でも欠けている相続人がいるとその協議は無効になってしまうためです。
○遺産分割協議書には、「誰が、どの財産を、どれだけ取得するか」を明確に記載しましょう。
○遺産分割協議書を作成した後日、新たな遺産(借金などのマイナスの財産を含む)が発見されるケースもあります。そのような場合に、どのように分配するかも決めておきましょう。また、なるべくそのような事態にならないよう、相続財産の調査は慎重に行いましょう。
○不動産の表示は、登記簿謄本の通りに記載しましょう。書き方によっては、相続税申告や相続登記の必要書類として認められない可能性があります。
○遺産分割協議書の作成そのものに期限はありませんが、相続税の申告に必要な書類となるため、その期限に間に合うよう作成してください。繰り返しになりますが、相続税申告の期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10カ月以内です。
まとめ
以上のように、遺産分割協議書の作成には、「誰が、どの財産を、どれだけ取得するか」について正確かつ詳細な記載が求められます。
作成方法や記載内容についてご不明な点がある場合、公正証書での作成をご希望の場合は、お気軽に私たち司法書士へご相談ください。