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相続放棄の手続は自分でできる?手続の手順や注意点・リスクを解説

「相続放棄」という言葉を聞いたことがある方も多いと思います。この相続放棄とは、相続の場面で相続人が、亡くなった方の持っていたお金などの財産についての権利や義務をすべて放棄することを指します。

相続と聞くと、親などの財産を貰える手続くらいの漠然としたイメージをお持ちではないですか?そのような、なんとなくのイメージを持っていると、せっかく親のお金などを引き継げるのになぜ放棄してしまうのだろう?という疑問が湧くかもしれません。

親の「財産」の中には、預貯金や不動産といったプラスの財産だけではなく、借金といったマイナスの財産も含まれます。亡くなった方に多額の借金がある場合などは、相続をする際にそれらのマイナスの財産を引き継がなくてはいけません。

亡くなった方が多額の借金などをしていた場合はそもそも何も引き継がない。そのような選択をするために利用するのが相続放棄になります。

今回のコラムでは、このような相続放棄の手続の方法について解説していきます。便利に見える相続放棄ですが、思わぬところに落とし穴があったりするため、注意点やリスクについてもみていきましょう。

目次

  1. 1 相続放棄を検討すべきケースとは?
    1. (1) 財産より負債の方が多いとき
    2. (2) 相続トラブルに巻き込まれたくないとき
    3. (3) 不動産を相続しても負動産になりそうな場合
  2. 2 相続放棄の手続を自分で行ってもよいケース
    1. (1)相続人同士の関係が円満な場合
    2. (2) 自分で財産調査ができる場合
    3. (3) 相続放棄の申述期限(3カ月)に間に合う場合
    4. (4) 必要書類を集めたり申述したりする時間を十分に確保できる場合
    5. (5) プラスの遺産よりもマイナスの遺産のほうが明らかに多い場合
  3. 3 相続放棄の手続を自分で行う方法、流れ
    1. (1) まずは相続放棄すべきか検討する
    2. (2) 相続財産を調査し把握する
    3. (3) 費用を確認し用意する
    4. (4) 必要書類を用意する
    5. (5)家庭裁判所に申述する(相続開始から3ヶ月以内)
    6. (6) 家庭裁判所から届く照会書に返送する
    7. (7) 相続放棄申述受理書が届いたら相続放棄は完了
  4. 4 相続放棄手続きを自分で行う場合の注意点とリスク
    1. (1) 照会書の書き方がわからず手続が止まってしまう
    2. (2) 不備があると裁判所から呼び出されるケースがある
    3. (3) 相続放棄の期間である3か月が過ぎてしまいがち
    4. (4) 裁判所に一度却下されると再申請が受理されにくい
    5. (5) 相続放棄をすることで損をする可能性がある
    6. (6) 借金・債務がある場合には別の相続人とトラブルになりやすい
    7. (7) 相続放棄後の管理義務についてトラブルが起きるケースもある
  5. 5 相続放棄の手続を自分でやらずに、専門家に依頼すべきケースとは?
    1. (1) 専門家に依頼すべきケース
    2. (2) 専門家に依頼する費用はどれくらい?
  6. 6 相続放棄の手続を自分でする際に知っておくと良いこと
    1. (1) 相続放棄手続は郵送でも可能
    2. (2) 相続放棄の申述書はコピーを取っておくのがよい
    3. (3)相続放棄をしても生命保険金や遺族年金は受け取れる
    4. (4) 相続放棄をすると代襲相続は発生しない
    5. (5) 不動産を相続する場合は査定結果を見てから相続放棄をするべき
    6. (6) 相続人全員が相続放棄した場合は相続財産が国のものになる
    7. (7) 相続放棄のほかにも限定承認手続きという選択肢もある
    8. (8) 相続放棄の手続にかかる期間
  7. 7 相続放棄の手続について、よくある質問
    1. (1) 相続放棄の手続きは郵送でもできますか?
    2. (2) 相続放棄が認められるまでに何日くらいかかりますか?
    3. (3) 相続放棄をしたらその後は何もしなくてよいですか?
    4. (4) 相続放棄をした場合、財産・お金はどうなりますか?
    5. (5) 相続放棄の手続ができないのはどんなケースですか?
  8. 8 まとめ

1 相続放棄を検討すべきケースとは?

それではまず、相続放棄はどのようなケースで検討すべきかについて考えていきましょう。

前提となる一般論として、相続ではお金や不動産といったプラスの財産よりも借金といったマイナスの財産の方が多い場合は相続放棄をすべきというものがあります。

また、このようなケースの他にも、相続で発生する様々なトラブルに巻き込まれるのを割けるために相続放棄を選択するというケースもあります。相続では故人の財産のうち、誰が何を引き継ぐのかで泥沼の争いになることが少なくありません。そこで、そもそも最初から相続放棄をしてしまえば、このような面倒事を避けられるという考えのもとで相続放棄を選択する方もいます。

以下では、具体的なパターンをより細かく確認していきましょう。

(1) 財産より負債の方が多いとき

財産より負債の方が多いケースは相続放棄を検討する典型的なものです。

ここでいう負債(マイナスの財産)とは、借金のほかにも滞納している税金や公共料金、家賃、医療費なども含まれます。明らかに負債が多い場合は、相続放棄をすることによってその負債を一切相続せずに済みます。

仮に負債を引き継いでしまうと、相続人が自分でその負債を返済しなければなりません。

(2) 相続トラブルに巻き込まれたくないとき

相続トラブルに巻き込まれたくない場合も、相続放棄を検討する価値があります。

相続では、遺産分割協議を行う際に相続人間で揉めることが多々あります。具体的には、複数の相続人でおこなわれる遺産分割協議は全員の合意が必要なため、一人でも合意しない人がいると遺産分割協議が前に進みません。

そうなってしまうと家庭裁判所を頼るしかなく、結局ただただ時間だけが過ぎてしまい、相続が始まってから数年間にわたってトラブルが続いてしまうといったケースも散見されます。

(3) 不動産を相続しても負動産になりそうな場合

3つめのケースは、不動産を相続しても負動産になりそうな場合です。

「負動産」という言葉は聞き慣れない方もいるのではないでしょうか。一般的に家や土地といった不動産は持っているだけでそれなりの価値があるといわれる資産です。

しかし、遠方にある誰も住んでいない田舎の家や土地など、利用もせず売ることもできず、ただただ固定資産税や管理のための費用がかかる不動産も中にはあります。このような自分にとって負債となってしまう不動産のことを「負動産」と呼ぶことがあります。

亡くなった方が預貯金などをあまり持っておらず、相続人に引き継ぐ事のできる財産が地方の不動産しかないといった場合は、相続放棄を検討すべきケースに当てはまる可能性があります。

上記のケースの不動産(負動産)は、管理に手間や費用、固定資産税がかかったり、売ろうとしても買い手が見つからなかったりすることも多々あります。そういった場合はそもそもその財産を引き継がず、相続放棄をしてしまうのも一案です。


2 相続放棄の手続を自分で行ってもよいケース

相続放棄の手続を自分でも行ってもよい代表的なケースは次の通りです。

・相続人同士の関係が円満な場合

・自分で財産調査ができる場合

・相続放棄の申述期限(3カ月)に間に合う場合

・必要書類を集めたり申述したりする時間を十分に確保できる場合

・プラスの遺産よりもマイナスの遺産のほうが明らかに多い場合 

それでは、それぞれについて詳しくみていきましょう。

(1)相続人同士の関係が円満な場合

「相続人同士の関係性」と「自分で相続放棄をすることができるか否か」は、一見すると無関係にも思えます。しかし、相続人同士の関係性によっては、思わぬトラブルが発生することもあるため注意が必要です。

ある相続人が相続放棄をすると、その人は最初からその相続の手続において相続人ではなかったという取り扱いがされます。つまり、その人の次の順位の相続人がいる場合は、次の順位の人に相続権が移ることになります。

次の順位の人との関係が険悪な場合、自分が相続放棄をしたことを伝えない可能性があります。そのような場合、ある日突然、故人の債権者から「お金を返してください」と次の順位の人に連絡がいき、そこで初めて自分が相続人になっていたことを知ることもあるかもしれません。そうすると、本来は発生しなかった親族同士のいざこざが発生することもあるため注意が必要です。

相続人同士の関係が円満な場合は、関係者で連絡を取り合って、全員で相続放棄をすることができます。そのようなケースでは相続放棄の手続を自分で行ったとしてもリスクを抑えることができます。

(2) 自分で財産調査ができる場合

相続放棄にあたっては、その判断をするにあたって故人の財産のすべてを1つずつ調べて価額を確定させるというプロセスが必要です。この財産調査が終わらなければ手続を前に進めることができません。

相続財産が多くて把握しきれない場合や、評価額を決めることが難しいとされる不動産が含まれる場合などは、自分で財産調査を行うことが困難です。

自分の力だけで相続放棄を行う際には、自分で財産調査ができるかどうかの判断が必要です。

(3) 相続放棄の申述期限(3カ月)に間に合う場合

3つめは、相続放棄の申述期限(3カ月)に間に合う場合です。

相続放棄を行う際の前提として、手続には期限があるということを覚えておく必要があります。相続放棄をする場合は、相続の開始があったことを知ったときから「3ヶ月以内」に家庭裁判所に申述する必要があります。

この期間内に間に合う場合は、家庭裁判所に申述書と必要書類を提出して、手続を進めていきます。

(4) 必要書類を集めたり申述したりする時間を十分に確保できる場合

(3)でご説明したように、相続放棄をするには3ヶ月以内に家庭裁判所に対して申述をする必要があります。相続放棄をするにあたって、故人の財産を1つずつ調査したり、戸籍謄本といった必要書類を集めたりしていると、あっという間に期限がきてしまいます。

相続放棄の手続を自分でするためには、3ヶ月という期限から逆算して、すべての準備を終えることがどうか判断することが重要です。

(5) プラスの遺産よりもマイナスの遺産のほうが明らかに多い場合

(2)〜(4)と関連して、最後はプラスの遺産よりもマイナスの遺産のほうが明らかに多い場合です。

財産調査にあたって、故人の持っていた資産と負債のバランスを調査するまでもなく負債の方が多い場合(預貯金や不動産もなく、借金だけは多額にあることがわかっている場合など)は、銀行口座や株式を1つずつ見ていく必要もないため時間的な余裕が生まれます。

そのような場合は、ご自身で相続放棄の手続を進めやすい環境にあるといえるでしょう。


3 相続放棄の手続を自分で行う方法、流れ

それでは、ここからは相続放棄の手続を自分で行うための方法や流れについて解説していきます。大まかな手続きの流れは次の通りです。

(1) まずは相続放棄すべきか検討する

Step1は、相続放棄をすべきかどうかの検討になります。

相続放棄を一度選択してしまうと、後々「やぱりやめた」と撤回することができません。故人の財産の内訳が、プラスの財産(資産)が多いのかマイナスの財産(負債)が多いのかはしっかりと見極める必要があります。

(2) 相続財産を調査し把握する

Step2は、相続財産の調査と把握になります。これは(1)と連動したステップとなります。

相続財産の調査では、「どのような財産(何が)」が「どのくらいあるのか(金額)」を調べましょう。例えば、仮に故人が借金をしていたとしても、その借金を上回る評価額の土地などがあれば、相続放棄をするのはもったいないということになります。

特に、借金といったマイナスの財産はくまなく探しましょう。主要な調査ポイントは次の通りです。

自宅内を調べる自宅のタンスや机の中、郵便受けなどを探します。その際に、金銭消費貸借契約書、借用書といった契約書の控えや通帳の引き落とし内容、督促状などを中心に見つけましょう。
信用情報機関へ情報開示請求する故人のローンやクレジットカードの利用履歴を登録している専門機関である「信用情報機関」に対して開示請求を行いましょう。
留守電を調べる最近は少し減りましたが、故人の利用していた固定電話や携帯電話に督促の電話がかかってきている場合があります。留守電が入っている場合は1つずつ確認しましょう。

(3) 費用を確認し用意する

Step3では、費用を確認して用意を行います。ここからはようやく具体的な手続に入っていきます。

相続放棄で必要になる費用は、概ね次のようなものになります。

収入印紙(一人あたり)800円
郵便切手代金500円程度
故人の死亡について記載されている戸籍謄本750円
故人の住民票の除票or戸籍の附票300円
相続放棄の申述をする人の戸籍謄本450円

自分で相続放棄の手続を行う際には、相続放棄の申述をする人の数だけ収入印紙が必要になります。それと同時に、連絡をするための郵便切手も必要になるので用意しましょう。郵便切手の金額がいくらになるのかについては、管轄の家庭裁判所に問い合わせましょう(家庭裁判所ごとに若干の違いがあります)。

また、その他の必要書類(戸籍謄本など)の取得にだいたい1500円前後必要になります。合計では3000円前後用意しておけば良いことになりますね。

(4) 必要書類を用意する

それでは、必要書類を集めるステップに移りましょう。相続放棄については、相続放棄の申述を行う人が故人とどのような関係にあったのかによって必要書類が違ってきます。

どのような人でも必要になる基本的な書類は以下のものになります。

故人が亡くなったことについての記載がある戸籍謄本
故人の住民票の除票or戸籍の附票
相続放棄の申述を行う人の戸籍謄本
相続放棄の申述書

故人の財産を相続できる人は法定相続人に限られていますが、必ず相続人になる妻や夫といった配偶者や相続順位が第1位の子どもについては相続放棄の必要書類は少なくて済みます。

これに対して、兄弟姉妹や直系尊属などが相続放棄をする場合は、自分より上位の相続人がいないことを証明する必要があるため(上位の相続人がいると自分が相続人になることができない)、必要書類がどうしても増えてしまいます。

(5)家庭裁判所に申述する(相続開始から3ヶ月以内)

必要書類や費用が揃ったら、いよいよ家庭裁判所に申述するフェーズになります。

相続放棄の申述を行う場所は「家庭裁判所」ですが、どこの家庭裁判所でも良いというわけではなく、故人の最後の住所地を管轄している家庭裁判所に申述を行います。

なお、ここでいう最後の住所地とは、故人が亡くなったときの住民票に記載されている場所になります。それでは、住所地からどのように管轄の家庭裁判所を調べれば良いのでしょうか。

管轄の裁判所は、裁判所のホームページから調べることができます。

https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html

例えば、当事務所のある東京都千代田区は、東京家庭裁判所の管轄になります。

(6) 家庭裁判所から届く照会書に返送する

相続放棄の申述を行うと、その後家庭裁判所から相続放棄照会書が届きます。相続放棄照会書とは、行われた相続放棄が申述をした人の意思かどうかを確認するために家庭裁判所が送付する書類のことです。

相続放棄は、相続人という地位を手放すという重大な決断になります。それゆえに本当に本人の意思なのかどうか?その意思は変わっていないかどうか?を家庭裁判所が照会書によって確認します。

相続放棄照会書に返答する回答書の様式は裁判所ごとに異なるため、管轄の家庭裁判所の指示に従いましょう。

(7) 相続放棄申述受理書が届いたら相続放棄は完了

家庭裁判所に相続放棄照会書(回答書)を返送して、家庭裁判所が正式に相続放棄の申述を受理したら、「相続放棄申述受理通知書」が届きます。

この通知書が送られてきたということは、家庭裁判所が相続放棄の申述を受理し、手続がすべて完了したということを意味します。

受理がされた時点で相続放棄をしたことになるので、その時点で申述を行った人が故人の財産を相続することはありません。

相続放棄申述通知書は一枚しか発行されないので、無くさないようにしましょう。仮に債権者から証明書の提出を要求されたときは、家庭裁判所に申請をして「相続放棄申述受理証明書」を発行してもらうこともできます。

相続放棄受理証明書を発行してもらわなくても、相続放棄申述受理通知書のコピーを債権者に渡せば済むことも多々あるようです。相続放棄申述受理証明書は、もし債権者から求められたら対応するという形で十分でしょう。


4 相続放棄手続きを自分で行う場合の注意点とリスク

次に、相続放棄手続きを自分で行う場合の注意点とリスクを確認します。主要な注意点とリスクは次の7つになります。

・照会書の書き方がわからず手続が止まってしまう

・不備があると裁判所から呼び出されるケースがある

・相続放棄の期間である3か月が過ぎてしまいがち

・裁判所に一度却下されると再申請が受理されにくい

・相続放棄をすることで損をする可能性がある

・借金・債務がある場合には別の相続人とトラブルになりやすい

・相続放棄後の管理義務についてトラブルが起きるケースもある

順番にみていきましょう。

(1) 照会書の書き方がわからず手続が止まってしまう

家庭裁判所から送られてくる相続放棄照会書に回答する際、その書き方がわからずに手続が滞ってしまうというケースが散見されます。なぜこのようなことが起こるのでしょうか。

まず、家庭裁判所からの照会事項の内容は、それぞれの事案ごとに異なります。つまり、回答しなければいけない事柄もおのずと違ってくるということになります。それだけではなく、自分ひとりでは判断に苦しむ法的な事柄も含まれていることがあります。

そのような場合に、どう回答していいかわからず戸惑ってしまう方もいるようです。迷った場合は弁護士や司法書士といった専門家に問い合わせてみることをおすすめします。

(2) 不備があると裁判所から呼び出されるケースがある

自分で相続放棄の手続を行う場合、相続放棄の申述に必要な書類に不備があるということは日常茶飯事です。書類に不備がある場合は家庭裁判所から「お呼び出し」がかかるなんてこともあるようです。

(3) 相続放棄の期間である3か月が過ぎてしまいがち

これまでもご説明してきたように、相続放棄を行う期間はタイトで、相続の開始を知った時から3か月しかありません。この期限に間に合あわなかった場合は大変です。相続人は故人の借金と言ったマイナスの財産まで相続しなければいけなくなります。

仮に「期限に間に合わない!」となった場合は、期限内に延長の申請を行いましょう。放置しておくと、原則的にそれ以降の相続放棄はできなくなってしまうため注意が必要です。

(4) 裁判所に一度却下されると再申請が受理されにくい

相続放棄が却下される割合は全体の0.2%程度だと言われています。相続放棄が却下されるケースとしては、3か月の期間を過ぎてしまったり、故人の財産を使い込んでしまったり、提出した書類の不備がなおっていないといったパターンが考えられます。

このように、本来滅多なことがなければ相続放棄は却下されないのにもかかわらず、それでも却下されてしまう場合は、再申請が受理されにくいという実態があるようです。

(5) 相続放棄をすることで損をする可能性がある

相続放棄をすることで損をする可能性があるというのも、注意点の1つになります。徹底的に財産調査を行ったつもりでも、後々になって故人が銀行の貸金庫に多くの財産を遺していたことが発覚するというケースも無いわけではありません。そういった場合では、相続放棄をすることで結局は損をしてしまうということもあります。

(6) 借金・債務がある場合には別の相続人とトラブルになりやすい

相続放棄をする際に、自分の次の順位の相続人がいる場合は注意が必要です。

相続放棄を自分だけ済ませて、「もう関係ない!」という態度をとってしまっていると、次の順位の人が相続人になっていることに気が付かず、ある日突然債権者からお金を返すように連絡が来る可能性もあります。

相続放棄をする際にはこのような相続人間のトラブルが発生することもあるので注意が必要です。

(7) 相続放棄後の管理義務についてトラブルが起きるケースもある

管理義務は少しイメージがしにくいので、具体例を出します。もし仮に、今あなたがご両親と同居していたとします。ご両親がともに他界してしまい、相続放棄をしようと思った場合に、住んでいた家はどうなるのでしょうか。

このように、故人と住んでいた家を相続放棄するようなケースでは、自分以外に相続人がいない場合には、その家をしばらく管理しなければいけません。

少しかたい言い方をすると、例え相続放棄をしたとしても故人の財産を現に占有している人は、その財産を清算人に引き継ぐまではその財産を管理する必要があります。

家であれば、その管理を放置して草や木が他人の家にまで入ったり、ゴミを捨てられた結果として異臭がし、それによって他人に迷惑をかけたりすると、第三者から責任を問われる可能性があります。


5 相続放棄の手続を自分でやらずに、専門家に依頼すべきケースとは?

(1) 専門家に依頼すべきケース

相続放棄の手続は自分ひとりで行うことも可能ですが、最初から専門家に依頼すべきといえるケースもあります。例えば、次の3つが典型的です。

・海外に住んでいて手続を自分一人で進めることが難しい

・故人の財産関係が複雑で財産調査が困難

・仕事の都合などで3か月の期限に間に合わなさそう

① 海外に住んでいて手続を自分一人で進めることが難しい

自分が海外在住で、急に身近な親族が亡くなった場合は、3か月以内に日本で手続を行うことが困難です。そのような場合は、最初から日本の弁護士や司法書士といった専門家に任せてしまう方が確実でしょう。

② 故人の財産関係が複雑で財産調査が困難

次は、故人の財産関係が複雑な場合です。このような場合は、財産調査に時間と労力がかかります。例えば、故人が会社を経営していたり、多数の金融商品を持っていたりする場合が挙げられます。

3か月以内にこれらの財産を全て調査することが難しいと思った場合は、なるべく早く専門家に相談しましょう。

③ 仕事の都合などで3か月の期限に間に合わなさそう

多くの方に関係するのは、この③ではないでしょうか?人の死は急に訪れます。親族の高齢の方がご病気で長期間にわたって入院されているなど、ある程度予測できる時もありますが、そうでない時の方が多いのではないでしょうか。

日々の生活に追われている中、さらに相続放棄の手続を自分一人で3か月以内にするのは大変です。そのような場合も、専門家を頼ったほうが良いケースといえます。

(2) 専門家に依頼する費用はどれくらい?

専門家に相談する場合、気になることといえば費用に関することだと思います。相続放棄の手続を弁護士や司法書士に依頼するにはいくら必要なのでしょうか?

 3か月の期限内3か月を超えた場合
司法書士3万円〜5万円4万円〜7万円
弁護士5万円〜10万円7万円〜13万円

一般的には、弁護士と司法書士では司法書士に依頼する方が安い傾向があるようです。上の図はあくまで目安ですので、相談に行く前に事務所のホームページなどで費用を確認しましょう。


6 相続放棄の手続を自分でする際に知っておくと良いこと

(1) 相続放棄手続は郵送でも可能

本来、相続放棄の申述は管轄の家庭裁判所に行って必要書類を提出する必要があります。しかし、人によっては管轄の家庭裁判所が遠方にあったり、平日の日中に家庭裁判所に行くことができないなんてこともあります。

そこで、相続放棄の申述書を含む必要書類を家庭裁判所に郵送して相続放棄の手続をすることも可能です。

※その後、書類不備などで家庭裁判所から呼び出された場合は、家庭裁判所まで行く必要があります。

(2) 相続放棄の申述書はコピーを取っておくのがよい

家庭裁判所から送られてくる照会書には相続放棄の理由などを書く必要があります。その際に申述書と違う内容を書いてしまうと問題があります。

そこで、相続放棄の申述書は必ずコピーをとっておき、申述書と照会書で同じ記述ができるようにしましょう。

(3)相続放棄をしても生命保険金や遺族年金は受け取れる

相続放棄では、故人の財産の一切を放棄することになります。よくあるご相談として、相続放棄をしてしまうと契約していた生命保険金や遺族年金も受け取ることができなくなるのか?というものがあります。

結論から先にお伝えすると、相続放棄をしても生命保険金や遺族年金を受け取ることができます。

生命保険金や遺族年金は相続人に直接支払われるものです。つまりこれらは相続財産には含まれず、相続放棄をするかどうかとは関係がありません。

(4) 相続放棄をすると代襲相続は発生しない

相続が発生したときに、故人の子どもなどの相続人がいない(亡くなっているなど)場合、代わりに孫や甥、姪が相続人になることがあり、これを代襲相続といいます。

相続放棄をすると、相続放棄をした人は初めから相続人ではなかったという扱いになります。

そのため、故人の子どもが相続放棄をすると、当然にその孫も法定相続人になることはできず、代襲相続というものは発生しません。

(5) 不動産を相続する場合は査定結果を見てから相続放棄をするべき

財産調査で問題になりやすいのが、一目で評価額のわからない不動産です。

相続財産に借金だけでなく不動産もある場合は、査定結果をみてから相続放棄の判断をした方が賢明かもしれません。

※相続放棄の期限は3か月と短いため、相続財産の中に不動産があると初めから分かっている場合は、早め早めのうちに不動産の査定を依頼しましょう。

(6) 相続人全員が相続放棄した場合は相続財産が国のものになる

もし、故人の財産を相続する資格のある相続人の全員が相続放棄をした場合、故人の財産はどうなるのでしょうか?

相続人全員が相続放棄をした場合は、その相続財産は家庭裁判所が選任した相続財産管理人という人によって清算されることになります。

お金などのプラスの財産よりも借金といったマイナスの財産の方が多い場合は、可能な限り、プラスの財産は債権者に分配されます。

(7) 相続放棄のほかにも限定承認手続きという選択肢もある

故人が借金などをしていた場合に、安易に相続放棄を選択すると損をする可能性があります。

故人に債務がある場合には、故人の財産のうち、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を相続する手続である「限定承認」をするという選択肢もあります。

限定承認が有効なケースとしては次のようなものが挙げられます。

・そもそも相続財産がどれくらいあるのか分からないケース

・故人が事業を営んでおり、自分もそれを引き継ぎたいと考えているケース

・仮に借金があったとしても、相続したい特定の財産(実家など)があるケース

(8) 相続放棄の手続にかかる期間

相続放棄の手続にかかる期間は、書類を集めはじめてから家庭裁判所に受理されるまで、おおよそ1か月から2か月程度かかります。

相続放棄は時間のかかる手続だという認識は持っておいた方が良いでしょう。


7 相続放棄の手続について、よくある質問

最後に、相続放棄の手続についてのよくある質問をご紹介いたします。

(1) 相続放棄の手続きは郵送でもできますか?

可能です。郵送した書類に不備がある可能性もあるので、期限には余裕をもって送付しましょう。

(2) 相続放棄が認められるまでに何日くらいかかりますか?

書類の準備をはじめてから家庭裁判所に受理されるまで、おおよそ1か月〜2か月程度かかります。

(3) 相続放棄をしたらその後は何もしなくてよいですか?

相続放棄をしたとしても、相続財産管理人が選任されるまでの間は財産の管理義務があります。

(4) 相続放棄をした場合、財産・お金はどうなりますか?

相続放棄をした財産やお金は、最終的に国庫(国)に帰属することになります。

(5) 相続放棄の手続ができないのはどんなケースですか?

相続放棄の手続ができないケースとしては、主に次の3つがあります。

・故人の持っていた現金を使い込んでしまったりして「法定単純承認」が成立するケース

・相続の開始を知った時から3か月を過ぎてしまっているケース

・書類に不備があったり、家庭裁判所からの照会書に回答しなかったりしたケース


8 まとめ

今回のコラムでは、相続放棄の手続を自分でする際の手続の手順や注意点・リスクを解説しました。

相続放棄の手続そのものは自分一人で行うことができます。しかし、相続放棄をするにあたっては、財産調査や必要書類の準備を3か月以内にしなければいけません。

故人の財産の内訳が、預貯金や株などの有価証券といったプラスの財産はほとんどなく、借金や家賃の滞納といったマイナスの財産しかないようなケースでは自分一人で相続放棄をすることも選択肢として視野に入るかもしれません。

しかし、故人の財産の内訳が複雑だったり、自分で評価することのできない不動産があったりする場合は、はじめから弁護士や司法書士といった専門家に任せてしまった方が良いケースもあります。

相続放棄をするにあたっては、自分の状況を見極め、適切に判断する必要があります。その際に、相続放棄は3か月以内にする必要があるという時間制限は必ず覚えておくようにしましょう。

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