遺言書作成にかかる費用とは?自筆と司法書士・行政書士・弁護士に依頼した場合を解説

「遺言書」という言葉自体、皆さんは聞いたりしたことがあると思います。そしてそれがどういうものなのか、ということもなんとなくは想像できていると思います。
遺言書とは、簡単に言ってしまえば「自分が死んだ時に財産などをどうするかについての意思を記した書類」のことをいいます。
しかし遺言書は実際に書くとなると、どう書いたらいいのか?など、その形式や書式(方式)に困ることもあると思います。そこで今回のコラムでは、遺言書の方式や費用などを解説していきます。
1 まずは遺言書の種類を確認
遺言書の方式は、次の3つの種類のものがあります。
① 自筆証書遺言
② 秘密証書遺言
③ 公正証書遺言
(1) 自筆証書遺言とは
自筆証書遺言とは、自分で書く遺言のことを言います。これが皆さんの想像する遺言の方式だと思います。自筆証書遺言は、遺言内容全文と日付、及び氏名を「自筆」して押印することで成立します。紙、筆記用具、印鑑があれば誰にでもすぐに書くことができます。
もっともここで注意すべきなのは、上述の通り自筆証書遺言は、遺言内容全文と、日付及び氏名を自筆して押印することで成立するので、あくまでも「自分で手書き」しなければならず、人に書いてもらったり、パソコン等で作成したりしてもそれは有効にはならないという点です。
以下では自筆証書遺言のメリット、デメリットを説明します。
●メリット
・手軽に短時間で作成できる
・費用がかからない
・法務局で預かってもらえる(この場合、検認が不要になる)
先ほども少し述べましたが、自筆証書遺言は紙、筆記用具、印鑑があれば、いつでもどこでも書くことは可能で、新しい紙や筆記用具を買うなどのことをしない限りは、特に費用も掛かりません。
また、法務局で預かってもらえた場合、「検認」という作業が不要になります。検認とは、遺言書を書いた方が亡くなり、遺言書を見つけた相続人や保管していた方が家庭裁判所に提出して、他の相続人に遺言の存在を知らせたり、遺言書の内容を確認してもらい、その後の遺言書の偽造などを防止したりするための手続きのことを言います。しかし法務局で預かってもらえていた場合、遺言書の偽造や紛失などのリスクはないため、検認する必要性が低く、検認作業が不要になります。
●デメリット
・争いになりやすい(筆跡で揉める)
・遺言書の紛失の可能性
・隠ぺい、破棄、改ざんのおそれ
・法務局に預けなかった場合には検認が必要になる
デメリットとしては以上の4つが挙げられます。皆さんも想像しやすい「争い」というのは、この遺言書が本当に亡くなった人が書いたものなのか?という疑問を出発点として、一方の相続人が他方の相続人に対して、「あなたが自分に有利なように遺言書の内容を書き換えたからこの遺言書は無効だ」と主張し始めるような争いです。基本的に自筆証書遺言は自分で保管するため、紛失してしまう危険や、相続人の一人が偶然遺言書を見つけてしまいその内容を見て、自分に有利なように書き換えたり、逆に自分に不利だから遺言書を隠したり、捨ててしまうという危険があります。そうすると遺言書が無効になってしまったり、遺言書が本物か偽物かで争いが起き裁判にまで発展してしまったりする可能性もあります。
上記メリットと反対に、法務局に預けなかった場合には偽造などの危険があるため検認が必要になります。
(2) 秘密証書遺言とは
秘密証書遺言とは、遺言内容を誰にも知られることなく秘密にしたまま、公証人に遺言の存在のみを証明してもらう遺言のことを言います。自筆証書遺言は途中で誰かに見られてしまう危険や紛失の危険があり、また後で説明しますが、公正証書遺言は作成に当たって、公証役場で公証人及び証人2名に、遺言内容などを公開しなければなりません。しかし、遺言者としては遺言内容を第三者に聞かれたくない、けれども遺言書が確実に存在することは法律上認めてほしいという場合に使われる方式です。もっとも実際にはあまり使われない方式です。
以下では秘密証書遺言のメリット、デメリットを説明します。
●メリット
・相続開始まで遺言内容を秘密にできる
・偽造や改ざんを防止できる
・自筆証書遺言と異なり、第三者による代書やパソコン等で作成することが可能
上述したように、秘密証書遺言は、遺言内容について遺言を執行する時まで誰にも内容を知られることは有りません。そのため、事前の相続争いなどのトラブルなどを避けられる可能性があります。
また、秘密証書遺言は、遺言書を封筒に入れて封に印鑑を押して封印するため、開けられた場合はすぐに分かり、無効になるため、偽造や改ざんの心配もありません。
秘密証書遺言は、自筆証書遺言と異なり、パソコン等で作成することが認められています。また、遺言内容を知られてしまいますが、第三者に代わりに書いてもらったりすることも可能です。
●デメリット
・費用がかかる
・証人が2名必要になる
・遺言書の紛失の危険性がある
・家庭裁判所で検認が必要になる
後で説明しますが、秘密証書遺言の手続きには、11,000円の手数料がかかります。また、手続きには証人が2名必要で、この2名の証人とともに公証役場に行き、手続きをする必要があります。証人には配偶者や直系親族、相続人になる予定の人、未成年者などはなることができません。
公証役場で手続きが済んだ後は、遺言書の保管は自分で行うため、紛失してしまうリスクがあります。紛失してしまうと、遺言が執行されなくなってしまうため、遺言者の意思が反映できなくなってしまいます。
そして遺言者が亡くなると、遺言書を家庭裁判所に提出して検認の手続きを受けなければならず、検認には約1ヶ月かかることから、相続が遅れてしまう可能性があります。
(3) 公正証書遺言とは
公正証書遺言とは、遺言の内容を公証人に話して、それを書いてもらって作成する方式のことをいいます。
もう少し正確に説明すると、遺言者が公証人役場において、2人以上の証人の立会いのもと、遺言の内容を公証人に口頭で伝え、それを公証人が筆記し、その筆記したものを遺言者と証人に読み聞かせ又は閲覧させ、その筆記が正確だと確認した後、各自が署名して押印することで成立します。
ちなみに、公証人は国家公務員で、公正証書の作成などを行う法律の専門家です。このような公証人は、弁護士や検察官、裁判官など法律の仕事に携わった人から主に選ばれます。作ってもらった文書は公文書になり、信用性が確保されます。また、作成された遺言書は公証役場で保管されるため、紛失や改ざん等のリスクもありません。
以下、公正証書遺言のメリット、デメリットを説明します。
●メリット
・隠ぺい、破棄、改ざん、紛失のおそれがない
・公証人による作成のため、法的効力が高い
・何度でも再発行できる
・家庭裁判所に提出して検認手続きをとる必要がない
公正証書遺言が作成された後は、その原本は公証役場で保管されます。そのため、遺言者以外の人が途中で遺言書を見たり、隠したり、書き直したりすることはできません。また紛失する危険もなく、安全性の高い遺言方式だといえます。したがって、無効を争われる心配もありません。
また、公正証書遺言の原本は公証役場で保管され、遺言者には遺言書の正本と謄本(これらは原本の写し)が渡され、もし失くしてしまっても、何度でも再発行できます。
そして、家庭裁判所に提出して検認する手続きが不要になります。自筆証書遺言のところでも触れましたが、検認は、公の人が遺言書を確認して改ざんを防止するためのものであります。公正証書遺言は作成時に公務員である公証人が確認していることから、検認の手続きがいらなくなります。
●デメリット
・手間と時間がかかる
・証人を用意する必要がある
・証人には遺言内容が知られる
・費用がかかる
作成するにあたっては、公証役場に多くの書類の提出が必要になります。例えば、戸籍謄本、印鑑登録証明書、実印等が必要になります。また証人になってくれる人を探して決めておかなければなりません。
そして作成するにあたって、あらかじめ公証人に連絡を取って、予約をして、ようやく作成にこぎつけます。作成するまでに大体、2週間~3週間ほどかかります。
作成時に証人2人にはあらかじめ遺言内容が知られてしまい、そこから内容が漏れ伝わってしまう可能性もあることに注意が必要です。これが原因で相続争いにつながることも考えられます。
なお、公正証書遺言を作成するには、相続財産の金額によって変わりますが、2万円から7万円ほどかかります。
2 遺言書作成にかかる費用の目安
(1) 自筆証書遺言の作成費用(一人で作成する場合)
自筆証書遺言は、自宅にある紙、筆記用具、印鑑があればいつでもどこでも作成することができるため、費用は一切かかりません。
(2) 秘密証書遺言の作成費用
秘密証書遺言は、公証人手数料として11,000円かかります。しかし作成自体に料金がかかる訳ではありません。
(3) 公正証書遺言の作成費用
公正証書遺言の作成には、公証人に手数料を払う必要がありますが、その支払い額は財産価格や人数に応じて加算されるため、一概にこれくらいかかるとはいえません。
例えば、妻に1億円の自宅、子に5,000万円預貯金を相続させる場合、手数料は妻については4万3,000円、子については2万9,000円、遺言加算の1万1,000円の合計8万3,000円かかることになります。このほかにも書面作成料などもかかってきます。
詳しくは手数料の目安として以下の公証人手数料令第9条を確認してみてください。
目的財産の価格 | 手数料 |
100万円以下 | 5000円 |
100万円を超え200万円以下 | 7000円 |
200万円を超え500万円以下 | 1万1000円 |
500万円を超え1000万円以下 | 1万7000円 |
1000万円を超え3000万円以下 | 2万3000円 |
3000万円を超え5000万円以下 | 2万9000円 |
5000万円を超え1億円以下 | 4万3000円 |
1億円を超え3億円以下 | 4万3000円+超過額 5000万円までごとに 1万3000円を加算した額 |
3億円を超え10億円以下 | 9万5000円+超過額 5000万円までごとに 1万1000円を加算した額 |
10億円を超える場合 | 24万9000円+超過額 5000万円までごとに 8000円を加算した額 |
3 遺言書作成を専門家に依頼する場合の費用の違い
(1) 司法書士に依頼する場合
司法書士に遺言書作成を依頼する場合、ケースによるためあくまでも参考程度ですが、費用はおよそ5~25万円かかります。
また相続後の登記や遺言執行の手続きなども行ってくれるため、行政書士に依頼するよりは少し高くなる傾向にあります。
(2) 行政書士に依頼する場合
行政書士に遺言書作成を依頼する場合、これもケースバイケースのため参考程度ですが、費用はおよそ5~10万円かかります。司法書士や弁護士に依頼する場合に比べて少し安く済ませることができます。
もっとも行政書士に依頼する場合、行政書士は相続登記の代行ができません。相続後の手続きを行ってもらいたい場合には、弁護士や司法書士に依頼しなければならないため、費用がかさんでしまう可能性があります。
(3) 弁護士に依頼する場合
弁護士に遺言書作成を依頼する場合、司法書士・行政書士と同じくケースバイケースのため参考程度ですが、15~100万円近くかかることもあります。
弁護士は遺言書の作成を一任でき、相続後の手続きも行ってくれるため、その分費用は高くなる傾向にあります。また司法書士や行政書士が担当することのできない紛争を扱ってきている分、相続時のトラブルやその回避策など経験に基づいたアドバイス等行ってくれます。万が一紛争等になっても、遺言書の作成を依頼した弁護士に依頼すればそのまま対応をしてくれる可能性があるため、司法書士等に依頼した場合に比べて手間や負担は少なくなる可能性はあります。
(4) 銀行に依頼する場合
銀行に依頼する場合、費用は最低でも100万円~150万円ほどかかります。
これほど高額になるのは、サービスとして遺言書作成や保管、遺言執行など様々なものが含まれているためであり、費用は弁護士などに依頼するより高くなることが多いと思われます。
4 遺言書作成時に注意すべきこと
(1) 自筆証書遺言は無効になる可能性がある
上述したように自筆証書遺言は遺言の全文、日付や氏名を全て手書きし押印しなければ有効な遺言として認められません。どれか一つでも欠けてしまえば、無効になってしまいます。
またパソコンやビデオ撮影によるものや第三者による代筆、複数人が共同して自書している場合も自筆証書遺言としての形式を備えていないので無効になります。遺言書は遺言する人が、その本人分だけしか書くことはできないため、二人の連名によるものなどは無効になります。
他にも、加筆や修正する場合、ルールに従って加筆や修正を行わないとどこを加筆、修正したのかわからなくなり、その部分が無効とされてしまう可能性があります。
(2) 遺留分を考慮しないと後々トラブルになるリスクも
みなさんは、いきなり他の相続人から「遺留分の侵害をしているから、遺留分を返せ」と言われても困ってしまうと思います。
「遺留分」とは、相続人が相続できる遺産の一定の割合を保障する制度のことを言います。
例えば父親が、子どもが2人いるのに子どもの1人にだけ遺産を全部あげるという遺言をしたとします。そうすると、遺言が絶対だからもう1人の子どもは遺産を相続できないと思われる方がいるかもしれません。しかし日本の法律では「遺留分」という制度があるため、相続人は遺留分を主張することで、一定割合の遺産を手に入れることができます。
このように遺言書を書いたからといって全てが遺言書通りになるわけではありません。そのため、遺言書を書く人は、遺留分を考えて書く必要があります。もっとも、遺留分の計算などは複雑で難しいため、専門家に依頼することをおすすめします。
5 遺言書作成でトラブルを避けたい場合は?
(1) 公正証書遺言を作成することが一番無難
上記の公正証書遺言のメリットでも述べたように、公正証書遺言は公証人に口頭で遺言の内容を伝えて作るもので、一種の公文書になります。また、作成された後は、その原本は公証役場で保管されるため、遺言者以外の人が途中で遺言書を見たり、隠したり、書き直したりすることはできません。また紛失する危険もありません。したがって、無効を争われる心配もありません。
費用や時間はかかりますが、その後のリスクは自筆証書遺言や秘密証書遺言に比べて格段に低く、一番安全な方法と言えます。
(2) 自筆証書遺言であっても専門家にチェック・相談を行う
大事なことなので繰り返しご説明しますが、自筆証書遺言はやり方を間違えると無効になってしまいます。そうすると、いざ相続を開始しようとしたときに、揉めてしまったりして相続トラブルにつながりかねません。そのため、自筆証書遺言であっても、書く前に相談したり、書いたら専門家に一度チェックしてもらったりすることをおすすめします。
(3) 専門家に遺言執行者に就任してもらう
遺言執行者とは、遺言者の代わりに遺言の内容を実現させる人のことをいいます。
遺言執行者がいなくても様々な相続手続きはすることができます。しかし、預貯金の払い戻しや不動産の名義変更などは法律の知識などが必要で、手間もかかることから、一般の方だけで手続きをするとミスを起こしてしまう可能性が高いといった問題点があります。
そこで、法律の専門家を遺言執行者として指定しておけば、手続き上のミスなどもなくスムーズに手続きを終えることができます。
6 まとめ
それぞれの遺言の方式をきちんと守って書かなければ、後々無効になってしまったり、相続トラブルに繋がってしまったりするリスクがあります。遺言の方式によってそれぞれメリット・デメリットはありますが、自分が遺言書を作成する際には、どの方式が一番良いか考えて作成してみてください。もっとも弁護士などの法律の専門家に相談して作成することでトラブルなどは防げるので、一度、専門家への相談を強くおすすめします。