相続手続きをしなかったらどうなる?放置リスクから期限まで徹底解説
相続が発生したにもかかわらず、各種の手続きを後回しにしていると、想定外のトラブルに巻き込まれる可能性があります。本記事では、相続手続きを放置した場合に生じるリスクや、2024年4月1日から施行されている相続登記義務化の概要、そして各種手続きの期限を解説します。
相続手続きには厳格な期間制限が存在するものもあります。
相続が開始したら、まずは期限を確認し、必要な処置を素早く取りましょう。スムーズな遺産承継のためにも、本記事を参考に早めの対策を検討してください。
目次
1 相続手続きを放置する主なリスク
相続手続きを行わずに長期間放置すると、多方面で不利益が生じる可能性があります。ここでは、主に想定されるリスクを解説します。
(1)借金・負債の返済義務を引き継ぐ可能性
被相続人に借金や負債がある場合、一定の手続きをしなかったら、その借金や負債をそのまま引き継ぐリスクがあります。
相続放棄や限定承認といった手段を取らないと、後になってから予期せぬ返済義務が発生するかもしれません。特に多額の債務がある場合は早期に負債の内容とその他の財産の調査などを行い、相続するかどうかを慎重に検討することが重要です。
手続き期限である3カ月を過ぎると、基本的には全ての借金や負債を引き継ぐことになるので注意が必要です。
(2)相続税の延滞税や加算税が発生するリスク
相続が開始されると、財産の額に応じて相続税の申告と納税が必要になる場合があります。期限である10カ月を過ぎてしまうと、延滞税や加算税が発生する恐れが高まり、後々多額の税負担を抱えることも考えられます。申告には財産の調査や書類の準備が必要であり、思いのほか時間がかかることが多いので余裕を持って進めることが望ましいです。期限厳守のためにも、専門家と連携しながら正確な情報を収集し早めに対応することが大切です。
(3)預貯金・株式の権利を失う恐れ
銀行口座や株式などの金融資産は、相続手続きを放置すると一定期間を経過して時効が成立してしまう可能性があります。特に預貯金の払い戻し請求権や株式の配当金請求権には時効があるため、期限切れによって引き出しが保証されなくなるケースもあるのです。実際には手続きによって引き出しが可能になることも多いとはいえ、不要なトラブルや煩雑な手続きを増やさないためにも早期の対応が不可欠です。権利を失わないように、相続が開始したら速やかに金融機関へ問い合わせて必要書類を整えましょう。
(4)不動産の相続登記が複雑化・長期化するリスク
不動産の名義変更を行わずに放置すると、時間の経過とともに相続人が複数世代にわたって増えていき、登記手続きはますます複雑化します。相続人の一部が所在不明になったり、必要書類の取得が困難になったりするケースが多く報告されています。さらに、2024年4月1日以降は相続登記の義務化が始まっているため、過料などの制裁に直面するリスクも高まります。結果的に売却や不動産運用の機会を逃すだけでなく、維持管理面での費用負担が増える原因にもなるのです。
(5)遺留分や相続回復請求権行使が困難になる可能性
遺留分侵害額請求権や相続回復請求権など、各種の権利行使には法律で定められた期限があります。放置していると権利を行使できなくなるばかりか、自分の正当な取り分を主張する機会そのものを失うこともあるのです。特に家族間の取り決めが複雑なケースでは、相続手続きを早めに進めて権利関係を明確にしておくことが大切です。期限を過ぎてしまった結果、後から権利を取り戻すことは困難となり、大きな損失を被る可能性があります。
2 相続手続きをしなかった事例
実際に相続手続きを放置した結果、財産処分や税金面で大きな損失を被った事例も存在します。ここでは代表的なケースを紹介します。
(1)相続登記を放置して売却ができなくなったケース
ある不動産を相続したにもかかわらず、長年登記の名義変更を行わずに放置した結果、いざ売却しようとしても複数の相続人同士で意見が合わず話し合いが長引き、売却の時期を逃してしまった事例があります。
書類の不備や相続人の所在不明、さらには二次相続の発生などが重なり、最終的な所有権移転に多大な時間と費用を要したという報告も珍しくありません。
不動産は現金化が難しい資産でもあり、登記のタイミングを逃すとその資産価値を十分に活かせません。相続後はできるだけ早く登記を済ませることで、流動性を保ち将来の資金繰りに役立てましょう。
(2)長期間放置により高額の加算税が課せられた事例
相続税の申告や納税を何年も先延ばしにしていた結果、延滞税と加算税の両方が上乗せされ非常に高額な納付を迫られたケースがあります。
元々の相続税よりも追加の税負担の方が大きくなり、相続財産を売却して何とか納税資金を工面しなければならなかったという例も報告されています。
こうした事態は、適切なタイミングで相続手続きを行っていれば回避できた可能性が高いものです。財産評価や書類の収集には手間がかかるため、早期から準備する姿勢が重要となります。
3 2024年4月1日から義務化されている相続登記
不動産の相続登記義務化により、手続きを先送りできなくなります。概要と違反時の罰則を確認しましょう。
(1)相続登記義務化の背景と概要
現在、所有者不明土地問題が深刻化しています。所有者不明土地とは、不動産登記簿を見ても現在の所有者が不明である場合や所有者は判明しているがその所在が不明である場合を指しています。
所有者不明土地が占める割合は九州本土に匹敵するとも言われています。
所有者不明土地が増えるほど、公共事業や復旧・復興作業の支障となります。
この問題を背景に、不動産の相続登記義務化が2024年4月1日から施行されています。これまで任意だった相続登記が、相続発生日から3年以内の申請が原則として求められることとなり、先延ばしが困難になります。これにより、迅速な登記手続きを通じて土地の管理や活用を円滑に進める狙いがあります。相続人同士の話し合いや書類準備を効率的に行えば、将来的に不動産を活用しやすくなるメリットも期待できます。
なお、2024年4月1日以前に開始している相続に関しては、2027年4月までに相続登記することが求められています。
(2)正当な理由がない場合に適用される罰則
義務化されたにもかかわらず、正当な理由なく相続登記を怠った場合、過料の対象となる可能性があります。過料は行政上の制裁であり、登記を自主的に行わないままの状態が続けば、さらに状況が悪化するおそれもあります。
これまでは登記未了でも実害が出にくいと捉えられていましたが、放置リスクの高さが周知されるにつれて、必然的に手続きを遵守する必要性が高まりました。早い段階で相続人間の協議を整え、必要書類を迅速に揃えることが賢明です。
(3)どうしても相続登記できない場合
面識が無い相続人がいる場合や、関係性が良好ではない場合など、遺産分割協議に時間や手間がかかり3年以内の相続登記が難しいケースもあります。
その場合は、「相続人申告登記」を行うことで、罰則は免れることができます。
相続人申告登記は、実際に対象不動産を相続するかどうかは不明確であるが、名義人の相続人であることを法務局に申告する制度です。
申告登記は申出人自身の分のみ行うこともできますし、他の相続人の分も含めて行うこともできます。
申告登記後、遺産分割協議が整ったら、協議後3年以内に相続登記することが求められます。
ただし、登記簿に相続人の住所や氏名が記載されるため、今まで来ていなかった固定資産税の納税通知が来てしまったりすることもあります。
4 期限が定められている主な相続手続き
相続に関連する主な手続きには、それぞれ特定の期限があります。期限を把握し、計画的に進めましょう。
(1)3カ月以内:相続放棄・限定承認
相続放棄や限定承認は、被相続人の負債を受け継ぎたくない場合や、まずは相続財産を整理してから責任を限定したいと考えるときに有効な手段です。
ただし、これらの手続きは、相続の開始を知った日から3カ月以内に行わなければいけません。申立書や戸籍謄本などの必要書類を、家庭裁判所に提出して受理されることで初めて手続きが成立します。万が一期限を過ぎてしまうと、負債も含めて全て相続することになる点に注意が必要です。
相続放棄の手続きは概ね以下の流れで進んでいきます。
①必要書類の収集
相続人であることの証明のために、必要な戸籍を集めます。
集める戸籍の範囲は、ケースによって異なるため、事前に裁判所に確認しましょう。
②申立書類の作成
必要な戸籍が集まったら申立書を作成します。
申立書の書式は家庭裁判所のホームページからダウンロード可能です。
必要事項や相続放棄をする理由を記入します。
③申立書と必要書類の提出
申立書の作成を終えたら必要書類と共に家庭裁判所へ提出します。
④照会書の記入
相続放棄の申立書類の提出後、家庭裁判所から「照会書」が送付されます。
相続放棄は相続権を丸ごと失わせる制度であるため、「本当に相続放棄をしてよい
のか」という最終確認の書面のようなものです。基本的には家庭裁判所からの質問
事項に回答するものですが、書き方を誤ると相続放棄ができなくなる可能性がある
ため、慎重に記入しましょう。
また、照会書には返送期限が設けられているため、必ず期限内に回答しましょう。
⑤相続放棄受理通知書の受領
照会書の内容に問題が無ければ、家庭裁判所から相続放棄受理通知書が発行されます。
これで無事に相続放棄手続が完了になります。万が一債権者から返済を求められた場合
は、受理通知書を提示しましょう。
(2)4カ月以内:被相続人の準確定申告
被相続人が生前に所得を得ていた場合、死亡した時点までの所得税や復興特別所得税を相続人が申告・納税する必要があります。これを準確定申告といい、期限は相続の開始を知った日から4カ月以内と定められています。管轄は被相続人の最後の住所地を管轄する税務署です。
相続財産に不動産収入や株式の譲渡益などが含まれる場合は書類の準備も複雑になりやすいため、税理士などの専門家に相談するのが望ましいです。特に期限に遅れると、延滞税のリスクが高まるため早めの対応が必須です。
なお、準確定申告は、給与所得が2000万円以上の場合や、公的年金が年400万円以上の場合等、一定の所得要件があるため、被相続人が生前に所得を得ていたからといって必ずしも必要になるわけではありません。
(3)10カ月以内:相続税の申告・納税
相続税の申告は、被相続人から引き継いだ財産総額が基礎控除額を超える場合に行う必要があります。基礎控除は、以下の計算式で算出した金額になります。
3000万円+(相続人数×600万円)
相続税の課税対象となる財産には不動産や預貯金、株式はもちろん、生命保険や退職金など様々なものがあります。
申告期限は相続開始を知った日から10カ月以内であり、この期間内に納税を完了しないと延滞税や加算税が課される可能性があります。不動産の評価は特に複雑であり、評価する税理士によっても金額が異なる部分となります。
また、相続税には様々な控除制度が設けられており、制度についての知識が乏しいことで本来減税できるはずができなくなってしまう可能性もあります。
また、申告内容に漏れがないように財産調査を綿密に行うことも必要であり、想像以上に時間と専門知識を要するでしょう。期限志向で行動することで、不要なトラブルやコストを回避し、スムーズな手続きを実現できます。
(4)3年以内:相続登記
不動産を相続した場合、2024年4月1日以降は原則として3年以内に相続登記を行うことが義務化されています。名義変更を先延ばしにすると、次世代へ移ったときにさらに複雑な手続きが必要になり、物件を売却する際にも手間がかかるでしょう。特に相続人が多いほど合意形成に時間を要するため、できるだけ早く取りかかることが大切です。法務局や司法書士に相談しながら、計画的に書類を揃えて登記を完了させるようにしましょう。
相続登記完了までの流れは概ね以下のとおりです。
1 - 相続人の調査
まずは相続人の確定作業が必要になります。
具体的には被相続人の戸籍を辿ることで、誰が相続人となっているのか、確認することができます。一般的には以下の書類が必要になります。
①被相続人の出生から逝去までの戸籍、除籍、改製原戸籍
②相続人全員の戸籍謄本
③被相続人の住民票除票
④不動産を相続する相続人の住民票
⑤相続人全員の印鑑証明書
2 - 不動産の評価証明書の取得
相続登記の際に、「登録免許税」という印紙代を法務局へ支払う必要があります。
登録免許税は不動産の評価額を用いて計算をするため、不動産の評価証明書を取り寄せましょう。
取り寄せ先は不動産所在地を管轄する市町村(東京23区の場合は都税事務所)です。
3 - 遺産分割協議、遺産分割協議書の作成
相続人全員で、不動産を誰が相続するのか話し合いましょう。
話し合いが成立したら、その内容を記載した「遺産分割協議書」を作成し、相続人全員が署名し実印で捺印します。
遺産分割協議書には書式の指定はありません。手書きでもWord作成したものでも、何でもかまいません。
ただし、相続登記にあたって記載しておくべき項目やポイントは存在します。
その項目をおさえたものでないと、法務局から再作成を求められることもあります。
4 ー 登記申請書の作成
戸籍や遺産分割協議書を法務局に持ち込めば相続登記ができるわけではありません。
「登記申請書」を作成し法務局へ提出する必要があります。
遺産分割協議書同様に、手書きでもWord作成でも問題ありませんが、記載方法や内容が全て法律で決まっているので、必要事項に漏れがあると、相続登記が受付けてもらえない可能性もあります。
5 ー 登記識別情報の発行
登記申請書や戸籍を提出し、受付けられると法務局内で書類審査を行います。
無事に審査が完了すると、「登記識別情報通知」という権利証が発行されて手続終了となります。
(5)5年以内:相続回復請求権
相続回復請求権とは、不法に相続権を侵害された際に、その権利を回復するための請求を行う制度です。法律上、侵害を知った時点から5年以内に手続きを取らないと時効により権利を失う可能性があります。相続人間の争いが複雑化している場合、この手続きを通じて正当な相続分を守ることが重要です。トラブルを大きくしないためにも、争いが生じた段階で早めに専門家へ相談しておきましょう。
5 相続手続きを放置しないために
(1)速やかな遺産分割協議の実施
被相続人の遺産をどのように分配するのか、相続人同士で話し合うことを「遺産分割協議」といいます。
遺産分割協議は相続人全員の合意が成立していれば、法律上は口頭でも有効ではありますが、相続登記や預貯金の解約など、実際に相続手続を行う場合は「遺産分割協議書」の作成・提出が求められることがほとんどです。
また、書面に残しておくことで合意内容を明確化することができ、後々のトラブルを避けることができます。
したがって、遺産分割協議書の作成は必須です。
相続が開始して年金関係や保険証の返却など、役所関係の手続がひと段落したら、速やかに遺産分割協議を行いましょう。
時間が経過するほど、相続人と連絡がとりにくくなったり、必要書類の収集に時間がかかったりと、分割協議がやりにくくなります。
専門家(弁護士・司法書士・税理士)への相談の活用
一人で相続手続をすることが不安な場合は、専門家への相談を活用しましょう。
相続手続を中心に扱っている専門家であれば、手続に精通しており、お困りごとや不安に対して適切なアドバイスや提案をしてもらえるはずです。
ただし、専門家へ相談や代行を依頼する場合は費用が発生する可能性があるため、注意が必要です。
近年では初回の無料相談を実施している事務所も多いため、うまく活用し、依頼するかどうかの検討に役立てましょう。
自分と他の相続人との関係性や財産内容、おおよその相続金額等、ある程度自分の状況や今後の手続にあたって不安なことを事前に整理しておくと、無料相談の効果が高くなります。
(2)相続放棄や限定承認の検討に備えておく
相続放棄や限定承認はかなり期間制限が厳格であるため、その選択をすべきかどうかすぐに判断できるように備えておくことも大切です。
例えば、被相続人に生前に財産内容をまとめておいてもらうようにお願いしたり、相続開始後すぐに財産調査を行い、プラス財産とマイナス財産の内訳を確認することが有効です。
6 まとめ|早めの相続手続きでトラブルを回避しよう
相続が発生したら、放置せずに期限を確認し、必要に応じて専門家のサポートを受けながら手続きを進めるのが得策です。スピーディな対応によって、将来のトラブルを防ぎましょう。
相続手続きは期限が定められているものが多く、どれか一つでも放置してしまうと予想外のリスクが積み重なる可能性があります。借金や税金だけでなく、不動産の登記問題や財産分割調整なども先送りになるほど複雑化するのが現実です。相続手続きをしなかったら大きな損失を被る恐れがあるため、できるだけ早期に行動を起こすことが欠かせません。わからない点があれば税理士や司法書士などの専門家に相談し、安心して次世代に資産を引き継げる環境を整えましょう。
